文化祭騒乱編

第59話 弁当


 「失礼しま~す」


 滞りなく午前中の授業を終えると、昼休みに香耶が教官室を訪ねてきた。


 「よ、遅かったな」


 勝手知ったる様子でソファに腰かけた香耶に、小次郎は弁当箱を渡しながら言った。


 2人で暮らし始めてから、昼は一緒に食べるのが恒例になっていた。


 「うん、ちょっと文化祭準備の追い込みで」


 「なるほどな」


 「いっただっきまーす!」


 「前から思ってたんだけど、お弁当は小次郎君が作ってるの?」


 椅子に抱き着くような姿勢で、相変わらずだらけている識が興味津々に覗き込んできた。


 「といっても、簡単なものだけですよ?」


 勢いよく食べ始めた香耶の横で、小次郎も弁当を開けた。確かに中身は、簡単なものばかりだった。


 「へえ~、ねえねえ、しほりん。私たちもご飯にしよう!」


 「そうだな。ほら」


 キーボードを打つ手を止めて、志保は随分と可愛らしい包みを識に手渡した。そそくさと識が蓋を開けると、中には色彩豊かなおかずがキレイに詰められていた。


 「・・・・・なんか意外です」


 「ん、なにが?」


 「志保先生、随分と可愛いお弁当作るんですね」


 「い、いや、これは違うぞ! 識がどうしてもと言うから!」


 「アハハハ、しほりん必死すぎだよ~。まあ、確かに私が頼んでるんだけどね」


 「そうなんですか?」


 はしをおいて、室内のポットでお茶を4人分入れていた小次郎も、面白そうに識の包みを眺めている。


 「うん。だって、かわいいほうがいいじゃん!」


 「それは、わかります!」


 香耶は立ち上がりながら、ニヤケ顔を小次郎に向けた。


 「いや、ちょっと待て。なんだ、その顔は。俺にはそんなテクニックないぞ!」

 

 「・・・・・え~~」


 「え~~」


 「え~って言われても・・・・」


 「どさくさに紛れて識もふざけるんじゃない」


 -------------------------


 そんな風にたわいもない話をしていると、やはり話題は近々始まる文化祭に流れていった。


 「香耶のクラスは何やるんだ?」


 「それは秘密。でも、前夜祭も劇やるし、後夜祭では踊るよ!」


 「へえ~、香耶ちゃんの踊りかあ。それは見てみたい・・・・」


 「私のほうを見るのやめろ。・・・・・・まあ、少しならいいか」


 「やった!」


 「今更ですけど、実技科の先生方も何かやりません? 後夜祭で」


 「?、もう予定出場者は決まってるんじゃないのか?」


 「そうだったんだけど、急に欠員が出ちゃったの。だから15分くらいなら何かできるよ」


 「小次郎君がバク転して、踊る!」


 「バク転はともかく、俺は躍ったことないんですけど・・・・」


 ※次回更新 7月17日 金曜日 0:00

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