第56話 上官


 (ど、どうすれば、どうすれば、こいつらを満足させられるんだ?・・・・・・というか、なぜ私はこんなに必死なんだ?)


 「そうだ。そうだよ。こいつらなんか殺してしまえば、それで済むんだ・・・・」


 自分に背を向けて去っていく2人の子供を狂気じみた笑みでにらみつけた克己は、ゆっくりと嘘で塗り固められた口を開いた。


 「なあ、君たち」


 「これ以上、なにを言うの?」


 香耶が、イラついたように言う。


 「学園まで送らせてくれないかな。せめてもの謝罪だと思ってくれ」


 「・・・・・まあ、そういうことなら。小次郎は、どう思う?」


 「いいんじゃないか? それに、


 (はっ!、まだケツの青いガキどもが!)


 小次郎の言葉などまったく気にしていない克己は能面のような笑みを張り付け、ジャケットのポケットに手を入れて、携帯を取り出した。


 嬉しそうに電話をかける彼は、小次郎から自分に注がれている哀れみを含んだ視線など、眼中にない。


 「私だ。車を一台回してくれ。ん?、体か? 私は五体満足だよ」


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 「さ、乗ってくれたまえ」


 克己が電話をかけてから、数分後には車が到着した。運転手は何もしゃべらずにドアを開ける。


 小次郎と香耶は後部座席に、克己は助手席に腰かけた。


 「ね、小次郎?」


 乗り込むと、すぐに香耶が小次郎に話しかけた。


 「なに?」


 「さっき言ってた、上官ってどんな人なの?」


 「ん?、目の前にいるじゃないか」


 「え?」


 「ほら、そこに」


 小次郎はゆっくりと前に乗り出すと、運転手を指さして、流暢な英語を話した。


 「お疲れ様です」


 「いいや。協力に感謝するよ」


 「え、ええええ⁉」


 驚いている香耶に振り向いて帽子のつばを上げた運転手の顔は、どう見ても日本人のそれではなかった。


 「なっ!、お、お前は誰だ!」


 その顔に気づいたのか、克己も驚愕の声を上げる。


 「残念ながら、私は名乗れないんだ。まあ、説明だけでもしてあげよう」


 運転手の格好をしている上官は帽子を乱暴に取ると、日本語で話し出した。


 「克己さん。あなたはこれから国際裁判にかけられます」


 「は、はあ⁉ いきなりなんだ!」


 「今回の依頼であなたについて調べたんですが、ひどいものですね。日本の国際信頼は地に落ちますよ」


 「あ、あ、あ・・・・・」


 完全に後ろ暗いところがあるのだろう。克己の膝は生まれたての子鹿並みに震えていた。


 「罪状は、裁判所でたっぷり聞かせてもらってください。まあ、死刑程度で済むように祈っておくことをおすすめします」


 ※次回更新 7月7日 火曜日 0:00

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