第54話 墓地


 「ま、まだ着かないのか?」


 車内に響く怯えたような叫び声に、無感情な声が答える。


 「もう少しの辛抱です・・・・・・それより、狙われる心当たりはありますか?」


 「は、はあ? なんでそんなこと話さなきゃならん?」


 運転手は答えない。無言でいきなりアクセルを踏み込んだ。


 「おっ、わ! もう少し穏やかにできんのか!」


 「降りてくださってもいいんですよ?」


 およそ、雇われ者とは思えないほど無礼な言葉を吐いた運転手を、騒いでいた男は訝し気ににらんだ。


 「君ぃ、そういう言い方は感心せんなあ」


 「・・・・・・・・我々だって、仲間が死んでるんです。それなのに、守るのがこれじゃあ、嫌にもなりますよ」


 「なんだと!、ちょっと止めろ!」


 後部座席から身を乗り出した男の禿げ頭を片手で抑え込んだ運転手は、愉快そうに言い放った。


 「ほらほら。ちゃんとしゃがんでないと死にますよ?」


 「っ!、お、覚えていろ!」 


 根っからの小心者なのだろう。軽い脅しだったのにも関わらず、男は座席に戻って頭を目一杯下げた。


 (なんなんだ、こいつは。官邸についたら、即クビだ!)


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 「着きましたよ」


 「お、おお。そうか。いやあ~、よかったよかった」


 「あ、頭は下げたままで出てきてください。周囲の確認もありますので」


 心の底から安心してしまった男は、運転手の声が若干高くなっていることにも視界に映る地面が官邸のものではないことにも気づいていなかった。


 「・・・・・・・も、もういいだろ? いい加減、腰が痛いだ」


 「ああ、いいぞ」


 異能を使って声帯模写を解いた小次郎が、小指のスイッチを入れながら嬉しそうにつぶやいた。


 「は?。お前、声おかしくなってないか?・・・・・」


 「両手を上げて声を出すな。殺すぞ」


 運転手の帽子を深くかぶったままの小次郎は、指を折り曲げ、手の中に仕込んである刃を展開して、ターゲットに突きつけた。


 「・・・・・・・・・・・っう、うそ、だ。うそだああああああああああ!!」


 「だから、声を出すなって」


 容赦なく振り上げられた小次郎のブレードが霞み、男の耳を吹き飛ばした。


 「ギャアアアアアアア⁉」


 さっきよりも叫び出した男に手を伸ばした小次郎は電撃を流して、痛覚をマヒさせてやった。


 「は、はあはあはあ・・・・・・」


 男は何か言いたげな様子だったが、目の前の刃がそれを許さなかった。流れ出る血を手で押さえながら黙った男に笑いかけた小次郎は、ゆっくりと口を開いた。


 「そうそう。墓地じゃあ、静かにするものですよ」


 「・・・・・・・・」


 男の顔が、足元に埋まっているであろう死人よりも真っ青に染まった。


 ※次回更新 6月30日 火曜日 0:00

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