第53話 復讐4~小次郎サイド~


 (外で銃声を聞くのも、久しぶりだな・・・・・)


 タクシー運転手がはめていた手袋を手になじませながら、小次郎は鼻歌を歌っていた。


 軽くアクセルの位置を足先で確かめていると、突如内線がけたたましく鳴った。


 「はい」


 なるべく冷静な声で、応答した。


 『銃撃されてる! 早く来てくれ!』

 

 「わかりました」


 思わず緩みそうになる頬を押さえ、アクセルを勢いよく踏み込んだ。ハンドルを思いっきり回し、180度回転する。


 小次郎を乗せた車はフェンスの合間を縫って、芝生をつぶしながら滑走路に飛び出した。目の前にはうずくまっている人影が数人見える。すぐそばには血だまりができていた。


 (ま、本物の血じゃないんだけどね)


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 「・・・・・・・あれ?」


 撃たれたはずの警備員は、やけに意識がはっきりとしていることに気づいていた。死ぬ間際に来るという走馬灯とやらが来る気配もない。


 思い切って右手を撃たれた頭に持っていくと、べったりと赤い粘着性の液体が付着した。が、血特有の鉄臭さがない。


 小次郎が識に渡した銃弾は、火薬こそ実弾のままだが、弾頭を変えてあった。ゴム弾で使用されるゴムに赤い塗料を混ぜた銃弾だ。それが着弾とともに飛び散り、あたかも人体の内部のように見えたのだ。


 「早く乗ってください!」


 「おお!、早かったじゃないか。よくやった!」


 ボディーガードの一人が必死に体を起こそうとしていると、滑走路を爆走してきたタクシーが嬉しそうな護衛対象を奪い去るように乗せ、どこかに走っていってしまった。


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 「頭は下げておいてください。後ろから撃たれないとも限りませんから」


 「だが、この窓は防弾だろう?」


 悠々とシートに背中を預けたターゲットは、指で窓ガラスを叩いた。


 「・・・・・防弾ガラスを貫通する銃弾だって、ありますよ」


 「っ!、そ、そうなのか」


 一瞬で足元に頭を下げたターゲットをバックミラーで確認した小次郎は、タクシーの進路を香耶との合流地点へと向けた。


 「どこに向かっているのかね」


 「官邸に向かっています。しかし、なるべく車が多いところを走りますので、少々時間がかかるかと」


 「そ、そうか。なるべく早く頼む」


 「わかっております」


 緊張やら恐怖やらで再びガタガタと震え出したターゲットとは裏腹に、小次郎は口元を歪めながら、アクセルを踏み込んだ。


 ※次回更新 6月26日 金曜日 0:00

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