第52話 復讐3~香耶&識サイド~


 ダァーーーン


 スコープ越しには、狙撃で殺してしまった人間もどこか現実離れして見えた。ボルトアクション式のライフルから薬莢を排出し、次弾を装填し、再びスコープを覗き込む。


 (・・・・・・なんかゲームみたい)


 狙撃をスポーツとしてしかやってこなかった識にとって、罪悪感を感じろというほうが無理な相談であった。


 人を殺してしまったという罪悪感は、実戦の緊張とかすかに見える鮮血よる興奮でその性質を性的興奮へと変え、下半身でくすぶり始めていた。


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 「は?・・・」


 目の前で警備員が倒れていく。彼の頭は、つぶしたザクロのようにぐちゃぐちゃで、真っ赤だった。


 ダァーーーーン


 今度は真横にいた別の警備員が、真っ赤なバラを彼の胸に咲かせた。倒れ込む警備員の姿と、十数年前に捨てた女の卒倒する姿が重なり、恐怖で胸がはち切れそうになる。


 「う、うわああああああ!!」


 「お、落ち着いてください! すぐにさっきの車を呼びますから!」


 秘書の男が顔面蒼白になりながらも、必死に電話を取り出した。逃げ出しそうになる警備員を怒鳴りつけ、全員で地面に伏せながら電話をかける。


 たった3回のコール音が、やけに長く感じる。


 「おい!、聞こえるか?」


 『はい』


 聞きなれた声が、かえって彼の焦りに拍車をかけた。


 「早く来てくれ! 狙われてる!」


 『わかりました』


 すぐに切れてしまった電話をしまい、ガタガタと震えている雇い主の横で、彼もまた頭を抱えた。


 (頼む頼む頼む、撃たないでくれっ!)


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 「なあんだ、皆伏せちゃった。つまんないの」


 スコープから目を外した識は、セリフとは裏腹になんの未練もなくライフルを片付けだした。


 小次郎に教わったとおりに自分がいた痕跡を消し、その場から立ち上がった。識はスポーツウェアに身を包んでおり、背中にはテニスのラケットバックが担がれている。


 ライフルをその中に入れ、識は自分の異能を発動させた。彼女の異能は隠密。簡単に言うと、5分間の時間制限はあるものの、透明人間になれるのだ。


 背負っている荷物すら透明にした識は、その場から駆け出した。まっすぐに高速道路を目指し、インターチェンジ付近まで走ると、あっという間に5分が過ぎた。


 「はあ、はあ、はあ」


 目の前に止めてある赤い軽自動車には、すでに運転手を気絶させた香耶が乗り込んでいた。


 「私たちの出番はここまでだね」


 「はい」


 いまだ興奮が収まらない2人は、ヒクついた笑みを浮かべあった。


 ※次回更新 6月23日 火曜日 0:00

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