第21話 武闘祭«午後の部» 前編
午後の部が始まった。午前と同じように志保が判定をしている。しかし、午前とは違う点が一つだけあった。
『大野、いなくなったね』
識が嬉しそうに通信機で話してきた。小次郎は会場の隅々まで視線を走らせながら、答えた。
「確かにいないようにも見えますけど、気をつけてくださいね。紛れ込もうと思えば、いくらでもできますから」
『それも、そうだね。お互い頑張ろう!』
(ホントに嬉しそうだな。そんなに嫌だったのか)
正直、小次郎は午前よりも警戒をしていた。先ほどの件は学園長に報告済みだが、処罰は武闘祭が終わった後ということになっている。
(つまり、何をしてきてもおかしくない)
小次郎の警戒とは無関係に試合は進んでいく。先ほどまでの大野の殺気が消えたのが影響しているのか、A組の生徒は軒並み敗退している。
そんな中、やはりひと際目立つ女子生徒がいた。小次郎と転校初日に戦った学園1位だ。
準決勝-------------------------------
「では、両者、構えて」
識のほうに学園1位の彼女がいる。対して、小次郎のほうには随分と体格がいい男子生徒が立っている。
(そういや、あの子の名前知らないな。それに異能を使ったとこも見てない)
「始め!!」
志保の掛け声とともに男子生徒は突進した。突進しながら斧型のデバイスを展開し、振り上げる。
「おらああああ!!!!」
雄たけびを上げた男子生徒の斧が真っ赤な炎で包まれる。今までの戦い方とまったく同じだ。対して女子生徒はゆっくりと細剣を構え、引き絞った。
(あの斧を受け止めきれるだけ技量があるようには思えないがな)
今まで彼女は男子生徒と同じように先手必勝の戦法で戦っていた。スピード重視の剣戟で相手を沈めてきたのだ。
それが今回はなぜか相手に先手を譲っている。
(相手の異能が遠距離型ではないと、わかっているからこその戦い方だな)
ブオンッ!!
振り上げられた斧が彼女に迫る。刃が届くか届かないかの紙一重のところで彼女は動いた。
「セアアアアア!」
目にも止まらない速さで繰り出された突きがものの見事に男子生徒の手首を貫いた。
「ぐああ⁉」
「ふん、」
斧の炎が消え、痛みでおびえている男子生徒を彼女は鼻で笑った。
ゴオオオオオオオオオオオオオ!
そして、彼女の剣もまた真っ赤な炎で包まれた。しかし、熱量が圧倒的に違う。すべてを燃やし尽くしてやるとでも言わんばかりに炎は荒れ狂い、男子生徒は失神した。
(・・・もったいない使い方をするものだ)
会場のテンションが上がるなか、小次郎は一人でそっとため息を吐いた。
※次回更新 3月6日 金曜日 0:00
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます