第20話 成敗!②


 「俺に依頼したいなら、報酬を払うんだな」


 口調を変えた小次郎は冷ややかな目で大野を見下ろす。


 歳の差 30以上、身長差 20以上。


 なんともちぐはぐな光景であった。


 「・・・・どこまでも傭兵か、お前は」


 「そうだな」


 「なら、やむを得ん!」


 語気を荒くした大野の瞳が赤く明滅し、耳障りな音が周りに響き渡る。


 (催眠波か。せいぜいB/4級といったところだな)


 小次郎はすぐに


 バキッ!


 「はぎゃ⁉」


 小次郎は目を閉じたままで大野の肋骨を狙い、正確に蹴りを放った。防御すらできなかった大野はもろにくらい、情けない声を出した。


 「ゲッホ、ゲホ、ゴホッ。な、なんで」


 「・・・・・・」


 小次郎は無言でしゃがみ、ゆっくりと大野に右手を向ける。


 「なんで目を閉じて攻撃できるんだ⁉」


 「・・・知る必要は、ない」


 小次郎の右手がかすみ、大野のみぞおちにめり込んだ。大野は白目をむいて膝から崩れ落ちてしまった。


 小次郎は立ち上がり、目を開ける。


 (こいつ、下のほうまで漏らしてやがる)


 電撃で弛緩したのだろう、大野のズボンにシミができていた。小次郎はを一瞥すると、その場から立ち去った。


 身体能力を上げている小次郎にとって、音だけで相手の座標を把握するなど簡単なことであった。そもそも慣れてしまえば、常人でもできる技術だ。


 (これに懲りてくれるといいんだけど)


 小次郎はキャリコを使わなかったことに満足しながら、闘技場に戻った。教官室の扉を開けると、志保と識が驚いたように目を見開いた。


 「「・・・・・」」

 

 「え、えっと、どうしたんですか?」


 「こ、小次郎君!」


 「は、はい」


 識が駆け寄ってきて、小次郎の目を覗き込んだ。


 「ああ、催眠波ですか?」


 「う、うん、そう。・・かかっていないみたいだね」


 「まあ、目つぶってましたし」


 「目をつぶったままで話をしていたのか?」


 志保も立ち上がって聞いてきた。


 「いえ、催眠波の発動と同時にです」


 「攻撃はされなかったのか?」


 「? いえ、こちらからは攻撃しましたけど」


 「い、いったいどうやって⁉」


 「音で位置は把握していたんで、そこに蹴りを入れただけです」


 「そ、そんなことができるのか?」


 「は、はい」


 2人は椅子に体を預けると、脱力してしまった。識は気だるそうにため息を吐いている。


 「・・規格外だとは思っていたが、ここまでとはな」


 「前線ではみんなそういうのできるの?」


 「みんなではありませんけど、半数くらいはできてましたよ」


 ((私たちじゃ一瞬で死にそうな前線だな))


 ※次回更新 3月3日 火曜日 0:00

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