第18話 呼び出し


 「そこまで! 判定、白!!」


 ワアアアア!


 志保の判定に会場がざわめく。 今のところ試合は順調に進んでいる。志保が判定を下し、選手が動けないようならば識か小次郎が回収する。


 (順調ではあるが、ひどい戦い方だな)


 選手は大体能力を正面からぶつけ合って戦う。これでは能力値が高いほうが勝つに決まっている。


 (工夫している奴もいるにはいるが、基本スタンスは変わっていない)


 ちなみに2-Aの生徒の勝率は50%といったところだ。2-A の生徒が負けるたびに小次郎の背後で殺気がただよっている。2回戦になるとその殺気は強くなり、気弱な選手は小次郎の対面から入場してくると、おびえた表情を浮かべた。


 「・・・気に食わないな」


 小次郎は相手ではなく大野を気にしながら戦っている生徒を眺めながら、そうつぶやいた。それでも実力がある、能力値が高い選手は順当に勝ち上がっているから、まだましか。


 2回戦が終わり、昼休憩になった。審判の3人には特別に弁当が配布される。3人は重たい足を引きずりながら教官室に向かった。


 「ねえねえ、やりにくくなかった?」


 識が小次郎のそばに寄ってきて、話しかけた。


 「確かに、すぐ後ろで殺気を出されると居心地は悪いですね」


 「私なんて判定を取るたびに睨まれているんだぞ」


 志保には珍しく、疲れを表情に出している。よほど窮屈に感じているのだろう。


 「あと半分だからがんばろうよ、しほりん」


 そんな志保の頭を識が優しくなでている。


 (なんだかんだいってこの姉妹は仲いいよなあ)


 談笑しながら3人が教官室に入ろうとすると、誰かが近づいてきた。


 「お前か、新任の若造というのは」


 (大野武、か。めんどうな)


 小次郎は必死に作り笑いを浮かべながら、答える。


 「はい、何か御用でしょうか?」


 「ふん、着いてこい」


 「・・昼食後でよろしいでしょうか。自分には仕事がありますので」


 そう返すと、大野は160センチそこそこの身長でふんぞり返りながら、青筋を立てた。


 「なんだと!!、・・・・まあ、いい。なら20分後、闘技場裏にこい」


 「わかりました」


 (笑っちゃだめだ、笑っちゃだめだ、笑っちゃだめだ)


 小次郎が笑いをこらえて大野が出ていくのを見ていると、後ろからくすくすと笑う声が聞こえてきた。


 (俺だって我慢してるんだから、あんたらも我慢してくれ!)


 何しろ小次郎の身長は180センチほどあるのだ。その身長差で小さいほうがでっぷりと太った腹を押し出しながら、けんか腰でしゃべっている。


 (コメディ以外の何物でもないじゃないか!)


 「ぷっ、フフ、あははっ、はは」


 大野がいなくなると、小次郎は思わず笑いだしてしまった。


 ※次回更新 2月25日 火曜日 0:00 「成敗!」

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