第17話 前兆


 開会式前夜-------------------------------


 小次郎はライフルの点検を終えると、もう一つのケースを取り出した。こちらの方にはなんのロゴもない。


 小次郎が中から取り出したのは、水筒サイズの筒がついた拳銃だった。


 【キャリコM95】


 海外ではあまり人気がなく、実用的ではない銃だが小次郎がいた傭兵団で改造した良品だ。


 装弾数が多く、機関銃のように発射できる。そのうえ、機関銃の中では隠しやすい。


 小次郎はいったんキャリコを分解し、点検を始める。ライフルとはまた違った用途ではあるが、点検をしておかないと誤作動する恐れがある。


 弾を詰め、左太もものホルスターに装着してみる。


 (久しぶりだが、やはり一番しっくりくるな)


 最前線では活躍の場はあまりないが、市街戦では頼りになる。


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 (小型とはいえ機関銃だから、コートを脱げとか言われなくてよかった)


 小次郎の格好は軍用のコートに伸縮性のズボン、防弾加工のシャツだ。


 (用心しすぎかもしれないが、審判は特に狙われやすそうなんだよなあ)


 審判は公平を期すために、使を付けられる。


 「ん? どうした、早くつけろ。狩谷先生」


 「あ、はい。あと小次郎でいいですよ。年下ですし」


 「そうか、まあ識もそう呼んでるしな」


 (こんなのをなんの抵抗もなく付けられる神経がうらやましいよ)


 小次郎たちは準備を終え、フィールドに入る。フィールドの内は簡単な仮想空間になっていて、選手は専用の機械から意識だけを飛ばしアバターで戦う。


 小次郎と識が2つある選手待機線のわきに立ち、志保が中心に立っている。ルール違反及び勝敗判定は志保がとり、選手の戦闘続行不能を見極め、必要があれば力づくで止めるのが小次郎と識の役目である。


 (さて、と)


 小次郎は位置に着くとともに顔は動かさず、視線だけで周りの様子をうかがってみる。すると、小次郎の真後ろの席に腰かけた担任もちの教師が目に入った。


 2-A 担任、大野武おおのたけしだ。ちなみに今年で58歳。ほとんど白髪に染まった髪を短く刈りこみ、頭頂部をかくしている。


 『あ、ああ。小次郎君、聞こえる?』


 ふと、識から内線で連絡が入ってきた。


 「どうしました?」


 『君の後ろに座った人知ってる?』


 「ええ。やっぱり要注意人物ですか」


 『うん、老害を絵にかいたような人だし、去年も不正があったって校長につかみかかったらしいし』


 「・・気を付けます」


 (そんなにイっちゃってる人だとは思わなかったよ)


 武闘祭の始まりは、もうすぐだ。


 ※次回更新 2月21日 金曜日 0:00

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