第13話 用心
その日の夜、小次郎は一人闘技場にいた。自分の異能を使うためである。左手をかざし、意識を集中する。
ヒュッ
軽い音がして青白い刀が現れる。
(この国はホントに平和なんだな)
小次郎は刀の柄をたたきながら、そう考えていた。いくら闘技場とはいえ、武器を展開すれば警報の一つでも鳴るかと思ったが、それどころか防犯カメラさえもない。
(まあ、都合はいいが)
小次郎はゆっくりと刀を抜く。鞘を消し、地擦りに構える。一見、脱力しきっていて、風でも吹けば倒れてしまいそうにも見える。目を半眼に開き、静かに刀を振り始める。
構えとは対照的に一筋の光と化した剣戟が空気を両断する。変幻自在に振るわれるその刀は止まることを知らず、無音で濃密な時間が流れていく。
チン、
どれほどの間、そうしていただろうか。小次郎はふいに刀を鞘に納めた。腰を落とし、柄に手を添える。
今まで半眼に開かれていた両目を見開き、小次郎は右足を踏み込む。
バシュッ!
先ほどとは比べ物にならないほどの速さで繰り出された居合いは空気が蒸発するような音を立てた。
バチ、バチバチ
振り抜かれた刀には白い電流が流れていた。
-----------------「異能・自己改造」
それは自身の体に電流を流して、細胞を変化させ、組み換える能力である。自分の体しか改造できないのは人間の脳が他者の肉体を把握できないからである。
しかし、改造はできずとも破壊ならできる。細胞単位で電流を流し、組み換えるのではなく接合を切ればよいのだから。
これならばどれだけ鍛え上げた筋肉だろうが、頑丈な骨であろうが、肉体である限り斬れる。
(軍ではあまり使うことはなかったが、必要になるかもしれないな)
小次郎が
小次郎は遠距離タイプの能力者ではない。れっきとした近距離タイプの能力者である。
-------------------------------
小次郎は自分の部屋に戻り、アタッシュケースを引っ張り出した。二つあるうち、F.S.と彫り込まれているほうを開ける。中には7年間連れ添った相棒がいる。
『レミントン700』
小次郎はそおっとレミントンを取り出し、手入れを始める。銃、特に狙撃銃は少しの狂いが命取りになる。なので、狙撃手は大切に、ガラス細工のように銃を扱うのだ。
銃身をのぞき、狂いがないことを確かめたり、隅々までゴミを拭き取ったりする。
(どれだけ周りが平和であろうとも、用心はしなければならない)
小次郎はそのことを過去の経験からよく、よく知っている。
※次回更新 2月11日 火曜日 0:00
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