第11話 実力2

 

 「じゃあ、ゆっくり撃てばもっと精度は上がるの?」


 「上がりますけど、その必要はないと思いますよ」


 「え?」


 「例えば狙うのが頭なら、額に当たろうが、目に当たろうが敵を無力化できることに変わりはないでしょう?」


 「・・・・・・」


 識は理解できないといった表情をしている。


 (本当にここは訓練校なのか? 実践を想定せずに訓練するなんて)


 「あ、ああ、今度はスナイパーライフルでもやってみてくれないかな」

 

 「はい」


 小次郎は渡されたライフルに弾を込め、安全装置セーフティをはずし、照準を合わせると、。いわば、体を銃と一体化させるのだ。


 砲台と化した小次郎は静かに息を吐いた。心の中でゆっくり数を数える。


 (3・・、2・・、1)


 ためらいなく引き金を引き、反動を体全体で受け流す。弾丸はマンターゲットの額を寸分たがわず打ち抜いた。


 「・・・・ライフルでも早いんだね」


 「まあ、7年間これで生きてきましたから」


 (俺の相棒ライフルならもっとうまくやれるのに)


 小次郎は少しもどかしく思いながらも、ライフルをおき、識に向き直った。


 「次は体術ですか?」


 「うん、そうだね。あらかじめ言っておくけど、しほりんは相当強いよ~」


 (確かに生徒よりは強いだろうし、油断はできないな)


 二人が一階に戻ると志保が準備運動をしていた。


 「終わったか?」


 「うん、私よりうまいくらいだよ」


 「そうか。では次に私と組み手をやろう」


 志保はボクサーのようにその場で飛び跳ねている。

 

 (やる気満々だな・・・)


 小次郎は内心うんざりしながら、両手をたらし背筋を伸ばした自然体で待つ。


 「・・構えないのか?」


 「逆に聞きたいんですが、なぜ構えるんですか?」


 「は?」


 「せっかく初見の相手なのに、構えを取ってしまったら


 「っ!」


 志保は驚きのあまり、目を見開いている。


 「ま、やりましょうか」


 気を取り直した様子の志保は、小次郎を凝視し始めた。対して小次郎は自然体を解かず、静寂が闘技場を支配する。


 -----------------先に仕掛けたのは、志保だった。


 一瞬で小次郎の上に飛び上がり、高速でかかと落としを放つ。しかし、小次郎は逆に間合いを詰め、体を開く。


 左手で志保の足首をやわらく受け止め、右の掌底でひざを打つ。骨が折れない程度に手加減をしたとはいえ、空中でまともに食らった志保は床にたたきつけられる。


 「かはっ!」


 衝撃で肺の空気が押し出され、呼吸困難に陥る。


 「まだやりますか?」


 「ゴホッ、ゴホッ。・・・いや、私の完敗だ」


 志保は悔しそうに声を絞り出した。


 ※次回更新 2月4日 火曜日 0:00

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