4-1

「美穂ちゃーん、隠し事はよくないと思うなー?」

「いい加減と吐きなさいって」

「だーかーらー、何にもないってばー」


 ニマニマと笑みを浮かべながら詰め寄ってくる山下と中島に口元を引きつらせつつ、木下は答える。授業中の教室から飛び出したかと思えば、戻ってきた時には今まで苗字で呼んでいた男子生徒を下の名前で呼んでいたのだ。これはナニかあったと思われても仕方が無い。実際二人からの質問攻めは下校中の今に至っても続いている。


 木下としては一度『エージ』と呼んでしまった以上、再び以前のように『一条君』と呼ぶのは何か負けた気がしてしまうので戻してやるもんかと密かに決心してはいるのだが、当の本人からどう思われているのかと気が気じゃなかったりする。そんな彼女の心情も実は二人にはバレバレ。だから。


「それよりもさー、今年もそろそろ文化祭の時期だねー」


 こうして彼女が無理矢理話題を変えてくることも二人にはお見通し。彼女達の通う学園は夏休み前に文化祭があり十月には体育祭もあるだけでなく、その他にも色々と行事がある。理事長がお祭り好きというだけで。まあ、生徒達には好評ではあるのだが。


 山下と中島は顔を見合わせ、揃って苦笑い。それでも仕方が無いからこの話題変更に付き合うことに。


「あ、文化祭といえばさー、美穂。頼んでたアレ、決心ついた?」

「うー……。どうしてもやんなきゃダメ?」

「え? 美穂ちゃん、私もう衣装の準備始めてるよ?」

「何でこんなときだけ行動早いのよ……。わかった。わーかーりーまーしーたー」


 ハイタッチをかわす山下と中島の傍でガックリと諦め顔で肩を落とす木下。しかし、次の瞬間。真顔で辺りをキョロキョロと見回し始めた。


「どーしたの?」


 不思議そうに首を傾げる山下の声に彼女は生返事をしながら、それでも何かを探すように辺りを見回すのを止めない。


「んー?……居た!! ごめんバックお願い!」


 中島にバックを押し付け、緩やかな土手を駆け下りていく。後ろで叫ぶ友人達の声を無視し、そのまま川の中へ。幸い水深は深くは無い。制服が濡れるのもお構いなしに抱き上げたのは、痩せ細った一匹の黒猫だった。

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