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 鏡で自身の姿を見たとき、女は安堵の息を漏らした。英二が伝えていたように、彼女に現れていた目は三日目の昼前には跡形もなく消え去っていた。

 

 女は思う。あの気持ち悪い目玉が消えたのは三日も退屈な時間を過ごした自分へのご褒美なのだ、決してあの胡散臭い相談所の連中のおかげなんかじゃない。だいたいあの連中は御札紙切れとよくわからない液体を置いていっただけじゃないか。たったそれだけで十数万請求するなど馬鹿げている。誰が払うものか、と。


 女は英二の言いつけを全ては守っていなかった。禁止といわれていた外出も実は毎日深夜にしていたし、頭からかける様に言われていた液体も、手の甲の目玉にほんの少しかけた時にぴりぴりと痺れる感じがしたから残りは全て捨ててしまっていた。もしそれで三日経っても目玉が消えなければクレームの電話を入れてやるつもりでいた。まあ、結果的に目玉はきれいさっぱり消えたのだから彼女にしてみれば結果オーライというところか。


 ともかく、今日からは大手を振って出歩ける。飲み屋にも今日から出勤できるし、固定客バカな男共に連絡とって来てもらわなければ、そう思い彼女は携帯のメモリに『アツシ』と登録した男に掛けてみる。数度の呼び出し音の後、保留の音声が流れてきた。仕事中なのだろうと大して気にも留めず、そういえば連絡していなかったな、と、次は店長に掛ける。こちらは数度の呼び出し音が鳴った後、眠そうな声で電話に出た。今日から復帰すると伝えた時、少し焦ったように渋っていたが女が無理矢理了承させた。


 携帯で時間を確認すると、昼を少し過ぎたくらい。まずは食事にしよう、それから新しい服を買いに行こうか。そう決めた彼女はいつものように化粧を自身に施していく。


 しかし、鼻歌交じりに部屋を出て行く彼女は気付いていなかった。自分では見えにくい場所に一つだけ目玉が消えずに残っていた事に。

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