2-3

「だからぁ! 体調不良だって言ってんでしょう! アンタは店長に私の伝言を伝えればいいのよ! うるっさい、口ごたえすんな!!」


 女は捲し立てたあと、一方的に通話を終わらせた携帯を片手にベッドに仰向けに寝転がった。天井を見つめながら苛立った自分を落ち着かせるために深く息を吐き出す。英二が帰った後、彼女は暫く休むと伝えるために飲み屋の店長に電話をかけたのだが、電源が切られていたため仕方なく新人ボーイに電話をかけた。用件だけ伝えるはずが新人ボーイの余計な一言が気に触り声を荒げてしまったのだ。自分が復帰したらある事ない事でっち上げてあの新人ボーイをクビにしてやろう。彼女はそう決めた。彼女自身にはそんな権限はないが、店長ならソレが出来る。たった数回寝てやっただけで自分のオンナにした気で居るあのバカな店長なら、と女はほくそ笑む。


 少し落ち着いたのか女は身体を起こし、テーブルの上から英二が置いていった御札を取りたち上がる。


「北ってどっちだっけ」


 一人ごちた女は方角を気にする事無く壁に御札を貼り終えたときに食料も飲み物も買い置きがない事に気付いた。貼ったばかりの御札を一瞥し、隠せば買い物くらい問題ないとばかりにいそいそと着替え始めた彼女は、愛用のバックに財布と携帯、それからタバコを突っ込んで部屋を出て行く。外出禁止の文字は既に彼女の頭の中から消えていた。


 いつものスーパーに着いた彼女は念のため一度自分の姿を確認しようとトイレへと向い、備え付けられた鏡に映った自分の姿を見て思わず「ダサ」っと漏らした。忌々しい目玉を隠すためとはいえ、普段ではありえないコーディネートの服に我慢できないのだろう。トイレから出ると、買い物籠を掴んで店内を足早に歩きつつ食料品や飲み物を次々に放り込んでいく。ふらりと立ち寄ったカー用品コーナーで見つけた、エアコン噴出し口に取り付けるタイプの芳香剤を慣れた手つきでバックに隠す。英二から聞いた怪異の原因の事など気にもせずに。


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