1-8
漏れそうになる悲鳴を、口を押さえ必死に堪える。スピーカーから流れるノイズはもう、彼女の耳には「変わって変わって」としか聞こえない。ごめんなさいごめんなさい頭の中でそう繰り返しつつ、白い何かが少しでも遠くへいってくれるのをただただ願う。
時間にすればそう長くは無いのだろうが、彼女にしてみればもう何時間もこの教室に隠れている様に思えた。意を決し廊下へと向かい窓へと手を伸ばす。割らんばかりの勢いで叩いてみても窓はピクリとも動かない。ほかに外に出れそうな場所を探し、視線を彷徨わせる。
ふと、向かいの校舎に目を向ける。そこには窓際に佇み彼女の姿をじっと見つめる何かが居た。
家族や友人達との思い出が必死に足を動かす彼女の脳裏に走馬灯のように浮かんでくる。まだ死にたくないとズキズキと痛む足が訴えてくる。涙で滲む視界を腕で拭い、曲がり角を曲がった彼女の顔に恐怖が浮かんだ。
「みいつけた」
目の前に居る女の唇がそう動いた。腰を抜かし、それでも距離を取ろうと後ずさる彼女をあざ笑うかのように、ぺたりとわざとらしく足音を立て女が一歩彼女に近づく。スカートのポケットから携帯が零れ落ちた。衝撃でどこかのボタンでも押されたのだろうか、画面に明かりが灯る。待ち受け画面に表示されたのは彼女と、二人の友人の顔。それと画面の端で眠そうに欠伸をしている、彼女の想い人。
もう彼にも会えないのだろうか。ぎゅっと携帯を握り締め、後ずさる。ユラユラと体を左右に揺らしながら女が一歩近づく。時間がひどくゆっくりと流れている様に思われた。背中に何かが当たる感触がした。彼女の頬を一筋の涙が伝う。女の手が伸びてくる。もう、逃げられない。せめてもう一度彼に会いたかった。
「……一条君……」
絶望しつつ、彼女は目を閉じる
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