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 飯島が非難の声を上げるのも当然といえば当然だろう。幽霊や妖怪を見た事がない、あるいはその存在すら信じていない人間からすればそもそも東雲達の生業すら胡散臭く思える。ましてや英二のような高校生が波長だのネストだの怪しげな単語を口にすればちょっとイタイ子供の戯言にしか聞こえないのだろう。しかし英二としては彼女が信じようが信じまいがどうでも良い事。彼の目的は木下美穂クラスメイトを死なせない事なのだから。


「……新人、こっからは別行動だ。東雲、行くぞ」

「ちょっと、南部さん!?」


 連れだって相談所を出て行く南部を追おうと飯島も立ち上がろうとする。が、まるで誰かが彼女を行かせまいと腰にすがりついているかのようになぜか尻がソファーから離れない。必死にもがいている飯島をニマニマと見ながらコーヒーを啜る英二とやれやれと頭を振るヒバリ。


「ちょっ!? ああもう! どうなってんのよ!?」


 苛立たしげに叫ぶ彼女の視線の先で東雲の白い車が走り去る。南部たちが乗ってきた車を置いていくのは彼なりの同僚への気遣いであるのだが、それに彼女が気付くことは無かった。


「さて、飯島さんおねえさん少し聞きたい事があるんだけど」


 英二の言葉に彼女はまるで親の敵でも見るかのような視線を向ける。


「とりあえず、アナタは怪異を信じてないって事でいいんだよね?」

「当たり前じゃない! そんな非科学的なものありえないわよ!」

「なるほど。じゃあ、なんで南部さんを追いかけないの?」

「動けないのよ! どうなってんの!?」


 ニヒッと笑顔を作り彼女に手を出すように促す英二。差し出された彼女の手を両手で握ると彼は続ける。


「そんなのしがみ憑かれてれば、重くて動けないのは当然だよ」

「なにを……っ」


 彼女の言葉が途中で詰まる。視界の中に何かが見えた。ありえない、ついさっきまで自分の隣には南部が座っていたはずだ。必死に思考をめぐらせながら、彼女はゆっくりと、視界に映った何かを確かめるために顔を動かす。そして、それを見たとき、彼女は考える事をやめた。つまりは気絶してしまったのだ。


「英二君、悪戯も程ほどにね」


 呆れ顔のヒバリにコーヒーのおかわりを頼むと、気絶したままの飯島を放置して英二は二階にある自室へと向かう。もともとこの事務所の二階には東雲が住んでいたのだが、今ここに住んでいるのは英二だけ。おかげでここ数年は自分の寝室とリビング以外の部屋は物置状態。機会があれば掃除しよう、なんてどうでもいい事を考えながら私服へと着替え始めた。

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