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「あ、ごめん。ぶつかった?」
聞きなれた声に恐る恐る美穂が目を開けると、見えたのはまるで視界を塞ぐようにして立つ男子生徒の背中だった。空の色も赤黒くなど無いし、不気味な何かも居ない。隣には少し怒ったような表情の愛理と心配そうに顔を覗き込む優美。
「あれ? ……アタシ……ごめん、ちょっと疲れてるみたい。ボーっとしてた……」
そういうと美穂は力が抜けたようにその場にへたり込んでしまった。
「美穂ちゃん!? 大丈夫!? 顔真っ青だよ?」
「ちょっと、一条! 保健室連れて行くから手伝って!」
周囲の生徒達も何事かと騒ぎ出す中、愛理にせかされ英二は美穂を背負い保健室へ向かい歩き出す。昇降口から保健室までたいした距離ではないとはいえ、周囲の視線と背中に当たる感触に顔が赤くなる英二。そこらへんは思春期の健全な男子高校生ゆえいたしかたない。唯一の救いは背負われている美穂が放心状態でおとなしい事位か。
先んじて保健室に飛び込んでいた愛理が保健室の教諭に事情を説明していたのか、教諭の指示に従い空いているベッドに美穂を座らせると、さすがにその場に同席するわけにもいかず英二は保健室を出る。
ふう、と息を吐き出し再び昇降口へと向かう彼の視線の先にこちらに向かいかけてくる担任の姿があった。保健室に駆け込んで行く彼女を尻目にポケットから携帯を取り出すと、そのまま耳に当てる。二、三回の呼び出し音の後、聞こえてきたのは女性の声。
「ああ、ヒバリさん? 俺だけど」
「英二君? 学校はどうしたんですか?」
「何かあったみたいで臨時休校だってさ。それより、
「所長なら今南部さんと……あ、ちょっと待って、代わりますね」
「ハイハイ、代わったよ」
「あー、悪いんだけどさ、今日は俺、休ませてもらえない? ちょっと面倒な事になりそうなんだよね」
「んー、もしかしたら、キミの言う面倒事と
「ヘイヘイ、分かりやしたよ」
通話を終わらせ携帯を仕舞うと、美穂から借りた折り畳み傘を広げる。年頃の男子高校生が差すには派手な傘を見上げ溜め息を一つ。
「さーて、お仕事お仕事、と」
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