閑話3


 まったく!お父様は何を考えているのでしょうか。命の恩人である渡り人様に声もかけずにいきなり攻撃するだなんて。お父様は実力的にも護衛が要らないのですから、しっかりと考えて行動して頂けなければ!


 城に戻った私たちは、経緯を説明すべく客間でお話することになりました。その前に渡り人様が仰られた通り、お父様にお話ししておかなくては。渡り人様の案内はポムちゃんに頼みましょう。あの子ならしっかりと送ってくれると思います。


 私は、森に飛ばされてしまった事、通路が書き換えられていた事、モンスターに襲われていたところを助けて頂いた事。それらを軽く説明しました。


「何だと!転移の通路が!?それは大変だ、ツェルトはどこにいる!?」


 お父様は宮廷魔術師のツェルトさんを探すよう、騎士の方たちに命令を出しました。魔法に関してはツェルトさんがよく知っているので聞くつもりなのでしょう。ですが…


 いつもでしたらすぐに駆け付けてくれるのですが今日はなかなか現れてくれません。渡り人様を待たせていますし、先にそちらのお話をしましょう。


「お父様、実は先程の方なのですが…」


 お父様に渡り人様の事を伝えます。すると、


「あいつ、妙な動きをすると思ったら渡り人だったのか。うむ…どうしたものか」


 難しい顔をされています。確かに渡り人様の扱いは慎重にしなければなりません。万が一、他国に情報が漏れてしまえば確実に連れていかれてしまいます。それは…嫌です。せっかく出会えたのにお別れしなければいけないなんて嫌です。


「アリシア…そんなに渡り人と離れるのが嫌か?」

「どうにかなりませんか、お父様?」


 無理難題をお願いしているのは自分でも分かっています。ですが私の『憧れ』が目の前にあるのなら、出来る限りの事をしないとそれこそ後悔してしまいます。


「…アリシアがお願いをしたのは久しぶりだな。分かった、お前の為に何とかしよう。だが、その前にあいつの考えも聞かないと…な?」


 良かった…。何とかする、と言った時のお父様はとても頼りになります。後は渡り人様次第です…。



 森で汚れてしまった服を変え、魔法を使って最低限の身だしなみを整えます。お風呂に入りたかったですがそんな時間はありません。

 無事に客間に到着していた渡り人様と今後について話し合うことになりました。


 自己紹介をしたところ、ある程度察しはついていたようで私が王女であることを明かしてもそれ程驚かれていませんでした。


「これから先、行く当てがあるのかと聞いているんだ。噂によると渡り人は使命を負っている、みたいなことを話す奴もいるみたいだが…」

「いえ、特には無いですが…」

「特にない?お前さん、冷静に落ち着いているからその口だと思ったんだが…まぁいい」


 どうやら私の心配していた事は無かったみたいです。ですがここからが本題です…。


「お前さん、ここに仕えてみないか?」

「え?」


 渡り人様が目を丸くされています。ですが学園に通うと聞いた途端、即答で承諾してくださいました。


 これで渡り人様の近くにいることが出来ます!そこで渡り人様に現在の取り巻く状況を伝えました。バレてはいけない事を理解して頂いた上で、こちらでの名前を決めるという話になりました。森でお名前を聞き損ねたせいで本当のお名前を知りません。ですが今更教えて欲しいなんて言える空気でもありません。


「そうだな…メディ、なんてどうだ」


 お、お父様!?何故その名前を今出すのですか!?私が幼い頃よく読んでいた絵本の主人公の名前ではありませんか!確かにとても憧れていましたがっ…うぅ…。


「わかりました。今日からメディと名乗ります」


 …渡り人様が納得されているのなら仕方ありません。ですが、いつか本当のお名前をお聞きしたいですね…。


 まずは距離を縮めるところから始めましょう!まずは名前を同級生っぽく、メディくんと呼ぶところからです!それが成功したならば私もアリシアと呼んで頂くことにしましょう!


 やった!メディくんと呼ぶことを許可して下さいました!条件付きですがアリシアと呼んで頂けるみたいです。これで多少は仲良くなることが出来るでしょうか?


 お部屋に案内はしたのですが本日のレッスンを結果的に休んでしまったことを思い出しました。お父様とも情報の共有をしなければなりませんし、惜しいですがメディくんとお話するのはまた後にしましょう。



 講師の方に謝罪を終えた私はお父様と現時点の情報を共有する為、玉座に向かいました。しかしその途中、お城の方たちの会話を盗み聞きしてしまいました。


「ツェルト様が何処にも見当たりません。禁書庫への転移魔具も破壊されていました」

「なんだと…?ツェルト様の指揮下にあった騎士団には連絡はしているんだろうな?」

「それが…」


 そんな…ツェルトさんが行方不明…?騎士団の方々も姿を消していますし、まさかとは思いますが私を…?いえ、まだそうと決まった訳ではありません。ですが情報を聞けば聞く程、疑惑が強まっていきます。


 窓の外を見ると辺りはもう真っ暗です。お風呂には入りましたし後は就寝するだけですが…。少し怖くなってしまった私はメディくんの部屋に向かいました。夜遅くなので起きていると限りませんが…。


 良かった、起きていたみたいです。こちらに来たばかりのメディくんに内部事情を話してしまうのはどうかと思いましたが、一人では抱えきれずに話してしまいました。


 その中でメディくんも自分が森で見たことを話してくれました。


 なんと、あの森に鎧を身にまとった騎士が居たみたいです。あの森は隣国との境にあり、私の国所属ではない騎士の可能性もありますが…。私の考えが正しいとなると本当に…。


 あぁ、もう!何でこんなことになってしまうんでしょう…。今日は良いことも悪いことも起きます。そう考えるとバランスが取れているのでしょうか?少なくともお父様にとっては良くない事ばかりでしょうけど。


 メディくんは快く学園に通うことを承諾してくれましたが、本心はどうなのでしょう?ポムちゃんが警戒していなかった事を考えると危険人物ではないと思います。ですが警戒をしないわけにもいきませんので、メディくんには悪いですがこっそりと監視を付けています。


 …そうだ!メディくんがこの国から逃げられないように、まずは外堀から埋めていきましょう!


 確かメイドのセナが言っていましたが、男女が二人っきりの部屋で一夜を過ごすと、きせいじじつ?と言うものが発生するらしいです。


 監視の方は居ますが、部屋の中には二人だけ。そして今は深夜です!はしたないですがこのままメディくんの肩をお借りして寝たふりをしましょう。そうすればメディくんもつられて眠ってしまい朝には、きせいじじつ?が発生してこの国から出ていけなくなります!







 …いい考えだと思ったのですがベルを使ってメイドを呼ばれてしまいました。あの時ベルの使い方を教えていなければ…!


「アリシア様、今後はこういった事はお控えなさるようにして頂きませんと」

「…セナは気づいていたのですね」

「えぇ。持ち上げた時、不自然に力が入っておりましたので」

「もう少しで、きせいじじつ?が発生するところでしたのに。そうすればメディくんもここから出ていけないでしょう?」

「…アリシア様、失礼ですが意味をお分かりで?」

「え?」




 その後、隠された意味を知った私は羞恥に悶え苦しむ事となりました。


 そ、そんなにもはしたない事、私は考えていません!


「ですが、これでメディ様が獣ではない事は証明されましたね。もし手を出していたら監視の者に吊るし上げられ、カルザス様に粉々にされていたでしょう。メディ様はよく耐えました」


 えぇ!?そんなにも重大な選択をメディくんに迫っていたのですか!?……ごめんなさい、メディくん。


 記念すべき、私とメディくんの出逢いの日は恥ずかしい私の勘違いで幕を閉じました。

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