講師
「私の名前はアオバジュンヤと申します。この世界とは違う世界からきました。俗に言う渡り人ですね」
「なっ…、」
『渡り人』
そんな単語を聞くとは予想していなかった。俺の存在がバレたのだろうか?城内にスパイがいてそこから漏れたとか…。だがそれならこんな回りくどいことはしないだろうし、わざわざ魔剣を所持した者を送ってこないだろう。
ではどうしてここに渡り人がいるのだろう。本当にたまたま冒険者ギルドから派遣されてきただけ…?
いや、実際に起こってしまったらもうしょうがないのかもしれない。そんなことより俺が一番危惧しているのは…
「………」
俺の隣にいる彼女の意識が奴に向いていることだ。
憧れを抱いている彼女が本物の、それも魔剣を持っている渡り人に出会ってしまった。地位、力、共に俺を超えていてまさに渡り人の名前に相応しいイジンだろう。
俺も本物だがどう判断するかはアリシアさん次第。頼む!アリシアさん!俺を見捨てないでくれ…!
「あ、アリシア…」
なんとか声を絞り出すが言葉が続かない。
「…?」
そんな焦る俺とは裏腹に、彼女はキョトンとした様子で見返してきた。
(どうかされました?)
【念話】で尋ねてくるアリシアさん。…あれ?思っていた反応とは何か違うぞ…。
(あの…この人、渡り人…だよ?)
(はい。まさかここで出会うとは思いもしませんでした…。メディくん、正体がバレないように気をつけてくださいね?)
(う、うん。あー、アリシア?随分と平然を保ってるね。魔剣とか持ってて凄くない?渡り人だし…)
想像したくもないが、アリシアさんなら派手に喜ぶかもしれないと気が気でなかった。それが特に喜ぶような様子もなく落ち着いているので少し安心しながらもそれとなく聞いてみた。
(えっ…そ、そうですね。でも私の………///。なんでもないですっ!)
なんだ?『私の…』って何か言いかけたよな…?一体何を言おうとしたんだ?途中で止められると余計に気になる…!
「まぁそんな感じなので皆さん肩の力を抜いてダンジョンに入りましょうか。パーティはもう組んであるんですよね?私が先頭に立つのでパーティもローテーションで先頭に立ちましょうか」
そんな時にアオバジュンヤの自己紹介が終わり、パーティごと固まってダンジョンに入っていくことになった。どうやら全てのパーティは必ず先頭に立つようだ。
「あっ、そうだ。君たちのグループは強そうだし最後に回ってくれるかな?」
アオバジュンヤがどこかのパーティに向かって最後になるよう促している。ひとまず、アリシアさんの件は後にするとしてどこのパーティだろう?
彼の見ていたパーティは…
「…え?僕たちですか?」
「そうそう、そこの三人組だよ」
俺たちのパーティだった。
マジか…。あまり目立たないようにしようと思った矢先に目をつけられてしまった。それだけ言うと彼は初めに先頭に立つ班を決めてダンジョンの入り口へと向かっていった。
「なんでしょうね。私達を最後にする理由とは…」
「強そうと発言していますしたね。魔剣を持つほどですから一目で実力がわかるのでしょうか?」
クラーがそんなことを口にする。いつにも増してこいつの目が輝いている気がするな。冷静なクラーをこんなにも高揚させるなんてそれ程まで渡り人には人を惹き付ける力があるのだろうか。
「魔剣…いつか私も…」
あ、そっちね。そういえばこいつは剣が得意なんだったな。クラーの目を見るに、魔剣とは憧れの対象なのだろう。
自然と魔剣の少女──レーヴァテインへと目を向ける。やはり幼い子どもにしか見えない。そんな彼女を中年のおじさんが連れているという光景は犯罪的な一部始終に見えなくもない。
ふと、彼女が何かを感じたようにこちらに振り返る。そして、
ニヤリ
笑みを浮かべた。目は俺を捉えており意味ありげに口角を上げたのだ。恐怖を覚え俺は咄嗟に視線をはずす。
こっちをみた…?後ろからの視線に気がついたのか?明らかに俺を意識して見ていた。まさか…正体がバレているのか…?
ゆっくりと視線を戻すと彼女はすでにアオバジュンヤとダンジョンに入った後だった。
「メディ君?魔剣の彼女に見られていたようだけど前に会ったことが?」
「いや、ないよ。なんかの間違いじゃないか?」
クラーにはそう言ったが心当たりはあるのだ。只の気のせいと決めつけずに警戒を強める必要があるだろう。…ボロを出さないように気をつけよう。
「…あ、他の人たちはもうダンジョンに入られたようですよ。私達も入りましょう」
アリシアさんに言われて周りを見ると、メイシュ先生の他には誰もいなくなっていた。
「ほら、貴方達も早く入りなさい。私も戦えますので最後尾で安全を確認することになっています」
先生が残っていたことを質問する前に答えられてしまった。そうだよな。ギルドの人に任せて、いってらっしゃいなんてするはずないよな。
俺たちは見えなくなった前のパーティを追いかけダンジョンに足を踏み入れた。
さて、ダンジョンといったらどのような風景を思い浮かべるだろうか?
岩肌がむき出しになった洞窟型や草木が生い茂る森林型、通路やトラップが存在する迷宮型。様々な種類があるだろう。この世界のダンジョンは主に迷宮型が大半を占めており、洞窟型や森林型などフィールドが広くなるものについては高難易度のダンジョンや大、中規模の下層にしか存在しない、
学園にあるダンジョンはもちろん低難易度かつ小規模、つまり迷宮型だ。そういったダンジョンでは魔物のポップが少なく敵が弱い。初心者にはピッタリだろう。
ちなみに街にあるダンジョンは中難易度で大規模にあたる。深く潜らなければそれ程強い敵は出てこないので中堅の稼ぎ場にもなっているらしい。俺もそこで稼ごうと考えている。
「ダンジョンの中はそこまで暗くなっていないのですね。本で読んだことはありますが本当に不思議な場所ですね」
アリシアさんが周りを見渡して言った。基本的にダンジョンの中は薄暗い程度の明るさに保たれている。原理はよくわかっていないが迷宮型ではそうなっているため安心していいだろう。
「先生、今日はどこまで進むのでしょうか?下に行くためにはボスを倒さなければいけませんが…」
クラーが先生に尋ねた。すると先生は少し困った顔をして、
「ごめんなさい、私もどこまで進むかは知らないの。ギルドの人に一任しているから…」
えぇ…そうなのか。ということは俺たちを最後に回した理由は…
「おそらくボスに挑むことになるでしょうね」
ですよね…
「大丈夫ですよ。Sクラスに入る実力があるなら簡単に倒せますよ」
そういって慰めてくれる先生。結構優しい人なんだな…。だけど先生、俺が心配しているのはそこでは無い。あの渡り人の前で戦うことが嫌なのだ。クラーに任せればいいとも思ったがそれでは逆に注目を集めてしまうし、なにより格好がつかないだろう。
そんな矛盾を抱えているためどうしたものかと悩んでいるのだ。
悩みながら歩いていると前方に別のパーティが止まっているのが見えた。話を聞くと魔物と遭遇するたびに対応の仕方を教えそのパーティは魔物を倒し終わると後ろに下がっているようだ。
すでに何組か終わらせているようで急いで前の方へ向かった。俺たちが前に追いつくとあと数組で番が回ってくるところだった。安堵するのもつかの間、すくに魔物と遭遇しちょうど閉ざされた扉が見えたところで俺たちの出番が回ってきた。
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