オリエンテーション
「今日はオリエンテーションとしてダンジョンに向かいます」
買物に行った翌日。SHRの中で担任のメイシュ先生からそう告げられた。突然のことで、内容が内容なだけにクラス中がざわめく。
「センセー、入学してから二日目にダンジョンに行くなんて危なくないですかー?」
生徒から懐疑的な声が上がる。学園が始まってまだ何も教わっていないのだ。当然だろう。だが、
「安心してください。ダンジョンと言っても学園内にある危険性の少ないダンジョンです。それに冒険者ギルドから講師の方が派遣されてきますので今回はダンジョンの見学といったところです」
見学という言葉が出てきて安堵する人がチラホラ見える。本当に見学だけで済むかはおいといて、昨日の今日でダンジョンに行けるのは嬉しい。さすがにダンジョンに行って魔物が現れないということもないだろう。それ抜きにしても、ダンジョンに潜るというのは体験しておきたかったものだ。
「ダンジョンでは三〜四人で行動してもらいます。即席でいいのでパーティを組んでください」
「アリシアさん。一緒に組もう」
「はいっ!」
すぐさまアリシアさんとパーティを組む。これだけは譲れない。むしろ護衛という名目を利用して軽く誘えるような感じだ。俺としてはアリシアさんと一緒にいられるので役得なのだがこんなことを考えていては怒られてしまうだろうか。
先生は三〜四人と言っていたな…となると他の人を入れなければいけないことになる。あまり知らない人を入れたくないのだが…。
「メディ君、一緒に組まないかい?」
こいつがいたか。
「いいよ、ちょうど人数が足りないところだったんだ」
クラーなら知らないと言うわけではないので別にいいだろう。
「アリシア様、よろしくお願い致します」
「え、えぇ。よろしく」
よし、これで三人集まった。ダンジョンにはこのパーティでいこう。クラーもいるし実力的にはトップクラスなんじゃないか?
「アリシアさんは誘いたい人とかいる?」
「いえ、特には…」
ということはこの三人で決定していいだろうか?他に誘ってくる人もいなさそうだし。
チラチラと視線は感じるのだがまだ様子を見ているといったところか?
「組めたようですね。それではダンジョンに向かいましょうか」
そういえばダンジョンなんてどこにあるのだろう。昨日は案内されなかったな。学園内にダンジョンがあるとなると、生徒が無闇に入らないように厳重に管理されているのだろうか。
教室をでていくつもある大きな建物の一つに入っていく。建物内に入ると固く閉じられた扉が目に入った。
【警告します。近くに危険因子を検出しました。十分に注意してください】
突然現れることでお馴染み、アドバイスが危険を察知して警戒するように促してきた。…危険因子って何?
【実力が未知数な存在のことです。おそらく目の前の扉の奥にいると思われます】
扉の向こうってことは…冒険者の人かな?ギルドから派遣されたって言っていたから危険人物ではないと思うけど…。一応警戒しておこう。
「ここからは立ち入りが制限されています。Sクラスの皆さんは学生証をこのパネルにかざすことで入場することができます」
先生が手本のようにカードをかざすと閉ざされていた扉がギギギと開いていく。
「先生、Sクラスの皆さんということは他のクラスには開放されていないのやですか?」
生徒の一人が質問をする。その問いに先生は、
「そうですね。この場所はSクラスならばいつでも入ることができます。他のクラスに関しては申請を出すことで許可が出る形となります」
Sクラスは実力がついている者が多く、特別に許可されているらしい。
「とりあえず中に入りましょうか。詳しい話はそれからにしましょう」
一人ずつカードをかざし中へと入っていく。俺たちも前にならい扉の向こうへと入っていくと、そこには待ち受けていた人影があった。
「こんにちは、君たちがSクラスの生徒だね?今日はよろしく」
パッとしない平凡そうな、どこにでも居るおじさんという印象。しかし、腰に携えている剣が想像を絶するものだった。そして俺の体に異常が起こり始めた。
「あ、あれ?なんで…」
どうやらアリシアさんの身にも起こっているようだ。普段は魔力の流れをコントロールし、抑えている魔眼が勝手に発動しているのだ。
そんなアリシアさんの様子を見て冒険者らしき男は、
「おいレーヴ、やめなさい」
と、剣に語りかけ始めたのだ。剣に向かって話すという不審な行動に一同首を傾げる。だが、俺とアリシアさんは違った。魔眼が勝手に発動するほどの魔素濃度と男の不思議な言動。その二つを繋げるものを禁書庫でみたことがある。それは…
「あーら、ここからが面白いのに」
剣が光に包まれてその形を変えていく。やがて光が集まり人の形へとなっていき…
「ふふん」
少女が現れた。燃えるような紅い髪を二つに縛り、無い胸を張ってどや顔を浮かべて立っていた。
「はぁ…魔力を無駄遣いするなって言ってるじゃないか」
「良いじゃないの、アンタの魔力は文字通り減るもんじゃないし」
「そういうことを言ってるんじゃなくてな…」
呆然としている者たちをよそに自分たちの世界に入ってしまった彼ら。まさか本当に…
「失礼ですが…そちらは魔剣、ですか?」
口を開いたのはクラーだった。こいつも平常は保っていたようだ。
「そ「そうよっ!」」
男が話そうとしたが少女が食い気味に割り込んできた。
「やはり…」
彼女の答えに驚きを隠せないクラーとその他大勢。呑気な会話を聞いても尚その反応が変わる様子がない。
【魔剣】
それはダンジョンの最深部や秘境の奥深くに存在していると言われる伝説の剣。尋常でない魔力を保持しており単体で国一つ滅ぼせるとも言われている。その中でも特に希少性が高いのが自我を持ったモノだ。自分の意識を持った魔剣は持ち主を選び、自ら表舞台にやってくるモノもいるだとか。扱いを間違えた街が滅んだという言い伝えがある。
そんな逸話を持つ魔剣が目の前にあるのだ。皆、萎縮して前に出ようとしない。
「えーっと…そんなに怯えなくても大丈夫だよ」
優しくなだめるように接してくるが魔剣の所持者を怒らせてはいけないと口を開こうとしない。
魔剣か…それを所持してるってことは熟練の冒険者ってことかな?あれ程の魔力を垂れ流しに出来るってことは魔剣自体が相当な魔力を持っているということか?……俺も欲しいなぁ。
「アタシは魔剣レーヴァテイン。魔剣について知らないヤツはいないわよね?言っておくけど、アタシのことバカにしたやつは容赦しないわ」
言っていることは子供っぽいのだが、魔剣なので洒落になっていない。下手したらこの街ごと消し炭になってしまうかもしれない。そんな不安がよぎった。
「ごめんごめん、レーヴはこんなこと言ってるけど実際にはできないから安心して」
笑いながら魔剣の言ったことを否定する男。一体どういうことだろうか。
「あの…そろそろ始めても宜しいでしょうか?」
横から先生が申し訳なさそうに顔を出し尋ねる。
「ああ、すみません。どうぞ、始めて下さい」
「はい、それではまずダンジョンの説明をしたいと思います」
気を取り直して先生はダンジョンやこの施設について説明を始めた。
「ダンジョンとは魔力の溜まり場、魔素溜まりから自然に発生するものです。発生したばかりのダンジョンは出現する魔物は弱く、階層も低いので踏破し易いです。踏破されたダンジョンはその時点で成長が止まりますが魔物は出現します。とはいっても魔物はダンジョンの外に出ることは通常ではないので倒されるまで一定数しか出現しないのが特徴ですね」
「先日、街で魔物が暴れた騒ぎがありましたがその魔物はダンジョンの魔物で、人の手によって強制的に連れ出された…と言ったように外的要因がなければ基本的にはダンジョンの外に出ることは無いです。そして何よりの特徴ですがダンジョンのモンスターは死骸が残りません」
(…!)
「死骸の代わりにアイテムや素材を落とすことがありそれらはドロップと呼ばれますが、モンスターは光になって消えていきます。そのため肉などの素材はダンジョン産と言われ寄生虫やらの危険性が少なく、高級に扱われたりします。これから向かうダンジョンもドロップは出現するので、あちらにある受付で売却するとお小遣い程度にはなるかもしれませんね」
と、要点を抑えたように興味深い話を続けた。本で勉強するよりも実際に教えてもらったほうがわかりやすいかもしれない。
「……というわけで学園としてはダンジョンへの理解を勧めています」
最後の方はダンジョンへ入る目的や学園の方針についての話だったので聞いていなかった。しかし前半は興味深い話だったな、と振り返っていると
「さて、ここで冒険者ギルドから派遣されてきた方の紹介をしたいと思います」
ん?あ、そういえばまだあの人の紹介はされてなかったな。どんな人なんだろう。魔剣なんて持っている人だから相当強い人なんだろうな、と緊張からか胸がドキドキとしてきた。
「えー、先程はレーヴがお騒がせしました。初対面の人にはいつもこんな感じなのでまぁ許してやってください」
「なによ」
少しの茶番をいれて和ませようとしてくるがどう反応したらいいか分からない人が大半で笑う人は皆無だった。
「……えと、私は冒険者ギルドから派遣されてきたんですが冒険者という訳ではないです。それっぽいことはしてましたが…」
驚愕の事実。彼は冒険者ではないらしい。では何故魔剣を所持しているのか?冒険して手に入れたものでは無いのか?
ドクッ、ドクッ、ドクッ
鼓動が早くなっていくのがわかる。果たしてこれは本当に緊張のせいなのだろうか。次第に虫の知らせのような嫌な予感がしてくる。
「あっ。そういえば名乗るのを忘れていましたね」
「私の名前はアオバジュンヤと申します。この世界とは違う世界で生まれました。俗に言う渡り人ですね」
「なっ…、」
クラス中が一気に騒がしくなる。だがそんなことは俺の耳にはもはや入ってこなかった。
彼が告げたこと。それは俺が一番起きて欲しくない、起きないだろうと思っていたことだった。
よりにもよって渡り人に憧れのあるアリシアさんの居る場所で、最悪となる形で出会ってしまった。
ドクッドクッドクッ
依然、俺の鼓動は収まる気配が無かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます