買い出し
クラブ棟を抜けたあと、講堂、音楽室、職員室、購買、食堂と見て回り次は寮に向かっている。
どうやら寮の説明を受けたあと、今日はその場で解散になるみたいだ。
解散したあとは何をしよう。
荷解き…いや街に出てみるか?学園をもう一度見て回るってものありだな。
そんな風に思いを巡らせていると大きな西洋風の建物が見えてきた。白を基調とした壁に赤茶色の屋根。広めのバルコニーまでついている。寮の前には噴水とベンチが設置されていて良い日和にはゆったりとくつろげそうだ。
「ここがS1クラスの寮になります。男子は二階、女子は三階に部屋があります。門限は二十一時、完全消灯は二十三時ですから遅れることのないようにしてください。それから大浴場ですが……」
先生の話を聞き部屋の説明をされたあと、その場でSHRを行い明日の予定を確認したあと解散になった。
無意識に緊張していたのか初日が終わったことに安堵し、伸びをする。
いやぁ…敷地の広さが規格外だと思ってはいたが学年ごとに五つの寮が用意されているとは。三学年だと十五か…。とんでもなくお金をかけているがこの国は大丈夫なのだろうか?
食堂も複数ありそれぞれの趣味嗜好にあったメニューが準備されているらしい。例えばボリューム重視であったり、パンであったりパスタであったり…。なんとお米も存在するようだ!いや、お城で普通に出てきたけどね。
想像以上に学園の設備は整っておりこれなら入学希望者が続出するのも頷ける。楽しい学園生活を送れそうだ。
さて、まずは部屋を確認しに行こう。荷物の整理をしなければ。
「メディくん、このあとはどうしますか?」
「部屋に行って荷物の確認かな」
「そうですか、それでしたら私もそうしますね」
まだクラスメイトとの仲は温まっておらず会話という会話をしていない。それはアリシアさんとずっと一緒にいたので仕方ないはず…。
あれ?もしかして彼女の学園生活を邪魔しているんじゃないか?
…。申し訳ないことをしたかもしれない。
「それじゃ、荷解き頑張ろっか。何かあったら遠慮なく部屋に来てね」
そうしてアリシアさんと別れる。部屋の場所は教えてあるので大丈夫だ。
しかし…彼女に危険が迫ったときにすぐにわからないのは危ないかもしれないな。彼女ならば転移魔法で逃げ出すことができると思うが、いざという時の為に馬車で言っていたアレを探してみるか。
↓ ↓ ↓
寮に入り部屋の前まで来た。先程渡された鍵を使って部屋の中に入ると新しい車の中のような新品のにおいが漂ってきた。妙に新鮮味がありワクワクを感じる。
外装も内装も目立った汚れがなかったので出来て間もないものだと思ってはいたが、誰かがいたような生活感がないのは意外だった。
これなら気持ちよく荷物の整理が出来そうだ。
部屋の中に荷物が置かれているのを確認すると窓のそばへ行きバッと全開にする。
うーん、いい陽気だ。よし、始めるか。
やる気満々で始めた荷解きは手を付けてしまえば案外早く終わるものだった。
荷物が少ないということもあるが、しっかりと荷物が種類ごとに分けられていてそのまま出すだけの作業になってしまったのが大きい。
部屋にはベッド、勉強机にイス、クローゼットやトイレが備え付けられていて生活できる水準を大きく満たしている。中でもトイレは大事だ。
風呂は一階に大浴場があるし、食事に関しても一階にキッチンがあるし、前日までに頼んでおけばケータリングも出来る。流石にこれは自分で払わなければいけないので、良い食事を食べるにはお金が必要なのだ。
ということは庶民や仕送りをもらえない貴族は必然的に街でアルバイトをすることになる。
幸いにも学園がある街アデクは広く、年中労働力不足のような環境なので人手がほしいと言う所はいくらでもある。
そのような募集を集めて生徒に紹介する場所もあるそうだ。俺も行ってみよう。
コンコン
荷解きが終わった頃を見計らったようにドアがノックされた。
「メディくん、アリシアです。今大丈夫ですか?」
なんと、訪ねてきたのはアリシアさんだった。小走りで入り口へと向かいドアを開く。
「どうしたの?部屋に虫でもでた?」
「虫ぐらいなら私でも対処できますっ。そうではなくて、一緒に街へ行きませんか?とお誘いに来たのです」
「いいね、俺もちょうど荷解きが終わって足りないものを買いに行こうか迷ってたんだよね」
ある程度の生活用品があると言っても全てではないので街に買いに行く必要があった。主にパンツとか。
「では一緒に行きましょう!メディくんと一緒なら安心です」
「流石に何かしてくる人はいないと思うけどね。その時があったら絶対に守るから安心してくれていいよ」
人気のない路地とかに入らない限り、絡んでくるやつが居るとか治安の悪い街ではないだろう。街中を散策するぐらいなら他人の目もあるだろうし一層安心だ。
俺たちは寮から遠い学園の南側の出口から出た。どうやらSクラスと貴族のクラスの寮は北側にあるみたいだ。一方、庶民の寮は南側にあり入試のときと同様に出入り口が違うようだ。
まぁ貴族と庶民で分かれているようなことは言ったが、別に北側から庶民の人が出入りしても監視があるとかではないので問題は無い。ただ学園を出てからの店の並びが違うのだ。
北側はお金があることを前提としたお店が多く高級感ただようオシャレなお店が一つ一つ存在している。
そして南側は住宅とお店がところ狭しと軒を連ねていて屋台なんかも出ている。そのため祭りなどがあると人でごった返すことがあるとか。ギルドやアルバイトを紹介してくれるところもこちら側にあるので都合がいい。
今は昼を少し過ぎたぐらいなので飲食店に入るにはちょうどいいかもしれないな。
「ちょっとお腹空いたね。街を歩きながら良さそうなところがあったら入ってみない?」
「いいですね。私はあまり街に出たことがないのでメディくんにお任せしてしまってもいいですか?…ってメディくんも同じでしたね、すみません」
「いや大丈夫、任せてよ」
彼女にそう言ってしまったがこの街を知らないので適当にぶらつくことぐらいしかできない。
少し歩き広場のようなところへ出てきた。どの道に入ろうか迷っていると彼女の視線が一つの方向に向いていることに気が付いた。
あれは…肉を焼いてる屋台かな?確かに美味しそうなタレの匂いが漂ってきている。
「アリシアさん、あのお店で何か買おうか?」
「あっいえ、いい匂いがしたので何かなと思っただけで…」
恥ずかしそうに否定するがチラチラと目をお店の方に泳がせている。わかるよアリシアさん、この匂いには人を惹き付ける魅力があるんだよね。
「そんなこと言わずに、ね?ちょっと覗いてみようよ」
「メディくんがそう言うなら…」
少し強引に誘ってみるとあっさりと乗ってきてくれた。屋台に向かって歩きだすと後ろをちょこんとついてくる。
「こんにちは、何のお肉を焼いてるんですか?」
「いらっしゃい!これはダンジョン産のボアラビットの肉だよ。お兄ちゃんたちは学園の新入生かい?」
屋台の店主は元気のいいオバちゃんだった。制服姿を見るなり学園の生徒だとわかったようだ。
「そうです。今日入ったばかりで街を散策しているんです。えと、二つ貰えますか?」
「毎度あり!それじゃあ入学祝いだ、二つで百カルにしとくよ!…ん?そっちの女の子は…」
「ありがとうございます。ところで近くに小物とか売ってるお店はありませんかね?」
ポケットから小銭を取り出して渡し、肉の刺さった串を受け取る。
「あぁ、そうさねえ…あっちの道を進めば色々売ってるお店があると思うよ」
「そうなんですね、行ってみます。また来ますね」
買うついでにお店の場所を聞いてみた。向かってみる方向も決まったので串焼きを食べるとしよう。
広場にあったベンチに腰掛けアリシアさんに一本渡す。
「ありがとうございます。美味しそうですね…これはこのまま食べるのですか?」
そうか、アリシアさんは野外でこういった物を食べたことはないのか。
「うん、普通にこうやって、あむっ。かじりつけばいいんだよ」
彼女に手本を見せるように肉にかぶりつく。思っていたよりも柔らかく、タレの香ばしい味が染み出してくる。美味い。
「……はむ」
串焼きと睨み合った結果、恐る恐る肉に噛み付いた。小さなひと口がまたかわいい。
「…!美味しいです。屋台でもこんなに美味しいものが出来るんですね」
よかった。アリシアさん初の買い食いは好評だったようだ。
その後、串焼きを食べ終えた俺たちは少しだけお腹にものを入れたせいで余計にお腹が空くのであった。
メディとアリシアが去った後の屋台では、
「あの女の子…どっかでみたような…?ま、学園の生徒ならいずれまた会うさね」
アリシアの綺麗な金髪が印象に残ったようだった。
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