敷地案内

 自己紹介を終え、緊張感のあったクラスの雰囲気が少し和やかになった。


「はい、これからのクラスメイト同士仲良くしてくださいね。ないとは思いますが何か問題を起こした場合は降格や退学などの処分が下るので注意してください」


 降格か…。


 問題行動をするつもりは無いが気をつけるに越したことはないだろ。異世界に来てまで学園の校則に従うのは少し情けない気もするが、ルールは大事だ。


「それでは自己紹介も終わったことなので皆さんにはステータス登録を行っていただきます」


 先生の発言にクラスがざわつく。ステータス登録ってなんだろう。そんな疑問に答えるように先生が続ける。


「この学園に入学する際、冒険者ギルドでステータスを測定したと思いますがその時、一緒に魔力波も測定していました。この魔力波は人それぞれ違っていて個人を特定するのにこれほど適したものはありません。といった訳で、今から配布するカードに魔力を流し、個人情報を登録して貰います。学園やギルドにもあなた達の魔力波が登録されているので、カード自体が身分証明書になります。簡単に言うと、学生証ですね」


 なるほど、学生証か。確かに魔力波は一人一人違うものだから本人の確認にはもってこいだな。向こうの世界で言うIC入りのカードみたいな感じかな?


「それと、学園としてはアルバイトを推奨しています。学園があるアデクは広い街なので、随時アルバイトを募集しているところがあると思いますから是非考えてみてください。もし、することになった場合はこの学生証が使えるので便利ですよ」


 ほー、アルバイト推奨なんて珍しいな。俺も魔術が使えてチョチョイのちょいな簡単なバイトがあればやってみようかな。


「では、カードを配りますね」


 先生が列ごとにカードを配布し、前の人が後ろに渡していく。俺も前から配られてきたカードを手に取る。これに魔力を流せばいいんだよな?


 周りを見るともう流している人がいるが、慌てず暴発しないようにゆっくりと魔力を注いでみる。


 するとカードと触れている手先の部分にビリっとした静電気のような軽い痛みが走った。


「学生証が魔力波を確認するとちょっとチクッとしますので気をつけてくださいね」


 おぅ、先生…。もうちょっと早く行ってほしかったよ…。


 隣を見るとアリシアさんもちょうど流し終えたところだったようで、少しビクッとしていた。かわいい。


「もし無くしてしまった場合は私に言ってください。再発行には手続きが必要なので、なるべく無くさないようにしてくださいね」


 手続きが必要なのは面倒だな。まぁ無くすことはないと思うので関係ないが。


「皆さん終わったようなので、次は学園の案内をしたいと思います。廊下に出て列は作らなくていいので私についてきてください」


 先生がそう言ってドアに向かったのでクラスメイトたちもぞろぞろと廊下に出て先生の後ろをついていく。出口から遠い俺とアリシアさんはのんびり歩きたいということでクラスの一番後ろにつくことにした。


「少しわくわくしますね。同学年の人と一緒に行動するのって初めてかもしれません」


 アリシアさんは学園に通ったことが無いので同学年がいる環境が新鮮なのだろう。キョロキョロと窓の外や壁に張ってある掲示物をみたりしている。


 その挙動一つ一つに小動物らしさを感じ、つい見守っていたくなる。


 かわいいなぁ。クラーや他人に対しての王女様モードもあれはあれでゾクゾクしてくるが、やっぱりあどけなさが残る天使モードの方が癒やされる。


「ここは図書館です。魔導書や簡単な護身術について書かれた本、それから正確ではありませんがこの国の地形や世界地図などもあるので参考にしてみてください。貸出は学生証で出来ますので気軽に借りてくださいね」


 魔導書…は簡単なものしかないだろうが世界地図は興味あるな。禁書庫の全部を見たわけではないが、世界地図を見かけたことはなかった。


 今度借りに来よう。広いから面白いものもあるかもしれないしな。


「次にこの場所は大体の人は来たことがあると思いますが、闘技場もとい体育館です。魔術や体術の授業はここでやることが多いのでちゃんと覚えておいてくださいね」


 俺とクラーが模擬戦をしたところだ。他にも同じ建物はあるのだが学年ごとに振り分けられている場所が違うようだ。


「いやぁ、またいつかやりたいね。メディ君との模擬戦」


 いつの間にかクラーが増えていた。アリシアさんは不満そうにしている。


「やだよ。少なくとも剣を使った模擬戦はやらないね」


 そう。剣術に秀でているクラーと剣を使って模擬戦をするなんて頭がおかしい。どうかしてる。まぁ魔術がメインの模擬戦なら考えないこともないが。


「そうですよ。貴方は剣が得意なんですからメディくんを巻き込まないでください」


 アリシアさんが話に入ってきてくれた。流石にアリシアさんに言われたらどうしようもないらしく、


「ハハ、言ってみただけですよ。また負けたら流石に悔しいですからね。もっと強くなってから挑みますよ」


 そう言って前の方の列へと戻っていった。…いや、もう戦いたくないんだけどな。


「メディくん、ダメですよ。危ないことはしないでくださいね」


 アリシアさん…俺だってしたくないよ。今は相手にその気がなかったから良かったけどアイツはいざとなったら仕掛けてくるだろうから気をつけていよう。


「では次の場所に移動するのでついてきてくださーい」


 先生が出口付近で集合をかけたので急いで向かった。


 闘技場を出て、少し離れた校舎のような場所へ入っていく。少し年季の入った…というか所々欠けたり色が落ちていたりして、とても綺麗とは言い難い建物だった。


「ここはクラブ棟です。この学園の様々なクラブが部屋を構えていますね。おそらく皆さんは猛烈な勧誘を受けると思いますので心しておいた方がいいですよ。クラブ参加は強制ではないので入りたいクラブがあったら是非参加してみてください」


 クラブ…クラブかぁ…。高校に入った時の運動部からの熱い勧誘を思い出すなぁ。見るからに運動が苦手そうな人とかも誘ったりしてそのまま仮入部からの本入部してしまって、結局練習がキツくて退部することになるんだよなぁ。


 自分で創れるなんて都市伝説だったし。


「センセー、どんなクラブがあるんですかー?」


 手を挙げてギャルっぽい女の子…チャーミーだったか?が質問している。


「そうですね…一番大きなクラブと言うとやはり魔術研究会ですね。主に上級生が下級生に魔術を教えたり既存の術の改良を行ってますね。他には剣術研究会や魔球クラブ、それに被服クラブや魔ッスルクラブなどがありますね。因みに私は魔ッスルクラブの顧問をしているんですよ。どうです?魔ッスルクラブ」


 魔ッスル…クラブ……?やべぇ、絶対関わらないようにしよう。入ってしまったら最後、ゴリゴリのマッチョに囲まれる未来がみえる。


「あー、はい、そうなんですね。わかりました、ありがとうございます」


 質問した本人も危険を感じたのか早めに話を打ち切った。


「メディくんはどんなクラブに入りたいですか?やはり魔術研究会ですか?」

「うーん、考えてないかな。ほら、先生も強制じゃないって言ってたしさ。俺よりアリシアさんは?」


 アリシアさんは話題性を狙ったクラブとかに強く勧誘されそうだな。あまりにもしつこいクラブがあったら学園に報告しよう。


 アリシアさんが参加したいクラブがあるなら俺も参加を考えてみようかな。


「興味深いクラブがあれば参加したいと思いますが…今のところ私も参加は考えていませんね」


 アリシアさんも考えてない、か。確かにまだ知らないクラブとかあるからなぁ。…よし、俺もアリシアさんが入ろうと思ったクラブに入ろう。


「次に移動しますよー」


 先生がまたもクラスに声をかけた。まだ学園に案内する場所があるのか…。


 随分と敷地が広いようで学園をかなり歩いたと思うのだが案内はまだ続くようだ。

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