クラスメイト

「おや、そこに居られるのはアリシア様…とメディ君じゃないか」


 突然、声を掛けられた。俺とアリシアさんは同時に振り返った。


 この少し芝居がかっている声は…。


「アリシア様、おはようございます」

「ええ、ごきげんよう、クラー」


 クラー・メイリック。入学試験の時に突然、模擬戦を申し込んできた公爵家の長男だ。


 アリシアさんに近づき膝を着こうとするが…


「クラー、そういったのはあまりよろしくないですよ。この学園では貴族であることや庶民であることは意味のないことです。つまり私が王女であったとしてもそれは全く関係のないこと」


 俺と話している時とはまるで別人のような、冷たく突き放した口調。顔は笑っているが言葉は全然笑っていない。


「…そう仰られるのならわかりました。恐縮ですが学園にいる間は学友としてよろしくお願い致します」


 そう言って立ち上がるクラー。払われたのにも関わらず微笑んでいる。それもヘラヘラしているのではなく爽やかに。


 こいつ、メンタル強いな…。俺がアリシアさんにあんな態度とられたら生きて行ける気がしない。公爵家の長男はそういった風に鍛えられているのだろうか?


「おはようございます、クラーさん。先日は模擬戦ありがとうございました。とても有意義なものでした」


 アリシアさんとの話が一区切りついたようなので会話に割って入る。模擬戦の結果は一応俺が勝ったことになっているが、その内容にあまり満足はいっていない。


 いや、だってねぇ…?


 あの戦いはクラーが最初から本気を出していたら負けていた。攻撃魔法が禁止されていたからしょうがない部分もあるが、剣の扱いに関しては圧倒されており、ルールに従って最初から本気でぶつかっていたら瞬殺だっただろう。


「やぁメディ君、僕の方も色々と学ばせてもらったよ。だから敬語はやめないかい?同じクラスなんだからもっとフランクにね」

「それはいいですね。メディくんには固い口調は似合いませんよ。無理してるのがバレバレです」


 そんな、アリシアさんまで…。貴族に絡まれないようにと思って始めたことだが、やっぱり慣れてないことはするもんじゃないな。


「わかったよ、クラー。これからよろしく」

「うんうん。今までの違和感がなくなってそっちの方が同級生って感じがあるね。…小耳に挟んだのだが貴族だからといって庶民を見下すような言動を続けるやつには制裁が下るみたいだよ?」


 制裁って…、まぁそうか。学園としては貴族と庶民の差をなくし互いの事をよく知ることで国への信頼を高めようとする狙いがあるのに、貴族がそんな態度をとっていれば不信感が生まれるだけだもんな。


 もしかしたらそんな思想を持った貴族をあぶり出すためにやっているのかもしれない。


「ほう、じゃあ、クラーに脅されて夜も寝れません!って言ったらお前「だけど、」」

「根も葉もないことを吹聴するのはよくないことだからね」

「…冗談だよ」


 せっかく出来た友達にそんなことするわけないよなぁ?

 …ちょっとだけ考えてたことは黙っておこう。


「それよりクラー、この後何があるか知らないか?」

「教室に着いた後かい?それは僕も知らないな」


 ずっと立ち話しているのも変なのでクラスの方に向かうことにした。だが、やはりクラーも教室で何をするのか知らないらしい。


 よくある話だと謎の戦いやゲームが始まったりするが…。


「ここが教室みたいだね。皆を待たせてるかもしれないから入ろうか」


 クラーが教室のドアを開けると少し外に漏れていた騒がしさが収まり、視線が俺たちへと降り注いだ。


 その視線は様々で、単なる興味や好奇の視線から羨望、更には嫉妬なども含まれていた。


「ああ、やっと来ましたね。みなさん、席についてください」


 先生らしき人が黒板の前に立っていて出歩いていた生徒たちに声をかける。それに従い、俺たちも席についた。


 教室の広さは高校と同じくらいのスペースがあり、その中でも俺は窓側の一番後ろという場所を指定されていた。


 とてもいい場所だ。教壇から遠いこともあるがそんなことより、


「メディくん、隣の席ですねっ」


 アリシアさんが周りに聞こえない程度の声で嬉しそうに話しかけてきた。


 正直に言おう。俺もめっちゃ嬉しいよ!!!!


 こっちの世界に来てから約一ヶ月。夢にまで思っていたアリシアさんとの学園生活が始まるんだ!もう心は舞い踊っている。


「うん、隣で安心したよ」


 それにしても…Sクラスだとやはりある程度は気品ある人たちが多いな。入学試験の時は物語から出てきたような丸く肥ったやつとか修行僧みたいな坊主がいたりしたんだが、このクラスはそんなことはない。


 別に容姿について批判するつもりじゃなく、このクラスが地味という印象が強いってだけの話だ。


 まぁそんなクラスだからアリシアさんが輝いて見えるのは仕方ないよな。パッと見たところ男女比は半々ぐらいだ。警戒しておこう。


「はい、全員揃ったところでまずはご入学おめでとうございます。私はS1クラス担任のメイシュです」


 静かに落ち着いた口調で喋る先生。髪を後ろで纏めていて着飾った印象はなく、クールな女教師といった感じ。


「この学園について説明することは沢山ありますが…最初は自己紹介といきましょうか」


 そう先生が切り出したことでS1クラスの自己紹介が始まることになった。


「ではこちらの列から名前と得意なもの、それからなにか一言お願いします」


 先生が指名したのは廊下側の席。つまり俺とは反対の列だ。


 となると俺は最後か。自己紹介ってみんな最初に言うの嫌うよな。先に言ってしまったほうが話のネタがあっていいとおもうのだが。


「あたしですか?」

「はい、お願いします」


 どうやら最初は女の子みたいだ。


「あたしの名前はチャーミー。魔術はちょっとしか使えないけど、勉強の方は割りかしできると思ってまーす。あ、この街で生まれ育ったから街の案内ならまかせてね!勉強できる子チャーミーちゃんって覚えてねっ」


 パチパチパチパチ


 い、インパクトが強い…!初対面の人がいる中でこんなにも自分を出せるのはすごいと思う。尊敬する。髪の毛も茶色だし、ギャルかな?


「ありがとうございます。次の人、どうぞ」


 そして先生、何も突っ込まないのか。後ろの男子君が戸惑っているぞ。


「あ、あぁ、えっと、、、俺は――」


 そんな感じでこの後は特に何事もなく自己紹介は進んでいった。あ、だけど途中でまた興味が湧くような自己紹介をしてくれた人もいる。


「初めましてみなさん。僕はグラース・メ・ガネと申します。気軽にメガネと呼んでください。得意なものは人間観察ですね。これからよろしくお願いします」


 キラッと眼鏡を光らせ自己紹介を終えるメガネ。ん…ややこしいな。


「ガリウス・ペインだ。得意なものは魔術。別に馴れ合うつもりはないが、よろしく頼む」


 今、アリシアさんの方を見て言ってたな。貴族としか関わるつもりはないと言ったのだろうか?硬派な貴族もまだいるようだ。


 そして、一番気を取られてしまったのが…


「初めまして。私の名前はクローサです。精霊魔術が使えます。少し遠い場所から来たので皆さんとは初対面ですが、仲良くしてくれると嬉しいです」


 ニコッと微笑んで着席する彼女。この子は確か上位の闇精霊が付いてた子だよな。入試のときに見た覚えがある。


 あの時は遠くて魔術が発動していることしかわからなかったがこの距離ならどんな魔術を使っているか解析できるかもしれないと思い、魔眼を発動させようとした。だが、


 じぃ〜〜


 何やら隣から物凄い視線を感じる。それはもう、穴が空きそうなくらいの猛烈なオーラが。


「メディくん?随分と熱心にクローサさんのことを見つめてましたね」

「すみません…」


 やましいことは何もないのだが、咄嗟に謝ってしまった。アリシアさんの機嫌がこれ以上悪くならないように魔眼を使うのはまた今度にするか…。 


「メディくんは銀髪の方が好みなのかな…?」


 小さく呟いた彼女の声は俺の耳には届かなかった。

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