クラス分け

「セナさん、お世話になりました」

「いえ、メイドとしての務めですので。メディ様もお体にはお気を付けて」


 馬車に乗り込み城でお世話になったメイドさんたちに別れを告げる。今日から城を離れて学園寮での生活が待っている。


 …え?学園にはちゃんと受かったのかって?


 もちろん、受かってました!


 ただ一昨日まで通知が来てたのを知らなくて大急ぎで支度を済ませた。支度と言っても禁書庫にあった本を片付けたりお世話になった人に挨拶をして回ったりなどをしただけで、学園に持っていく物の準備は全てメイドさんに任せてしまっていた。


 流石にそれくらいは自分でやった方がよかったかな…?


「しっかりと最高品質のパンツを調達しました。ブリーフで」

「何でパンツ限定?!それに俺はトランクス派だよ‼」


 ハッ…!人前では口調を柔らかくしていたのにうっかりと俺といってしまった…。これでは学園でボロが出てしまうから気をつけないと…。


「メディ様。お節介かもしれませんが、無理に取り繕う必要は御座いませんよ?」

「…そうですね。心に留めておきます」


 そんな感じでセナさんとの別れを終え、視線を移す。その先ではアリシアさんと王様の会話が弾んでいた。


「アリシア、風邪には気を付けるんだぞ。それに怪我もしないようにな。それから寂しくなったらいつでも【転移】で城に戻ってきてもいいからな。それからそれから…」

「それは昨日からずぅぅぅぅっと聞いております!もう聞き飽きました。早くお仕事に戻ってください‼」


 どうやら王様は公務を抜け出してきたようだ。この人はどうもアリシアさんの事になると暴走してしまうようだ。娘がいる父親はそんなものだろうか?


「うむ…そうか。おいメディ。お前はしっかりとアリシアのことを守るんだぞ」

「もちろんです。任せてください」

「もぅ…」


 アリシアさんは冗談だと思っているかもしれないが隣国の件もあるし、何よりアリシアさんは王女なのだ。良からぬことを考えている輩も居るかもしれない。


 こちらの世界に来た時に貰ったスキルと、禁書庫で見つけた魔法の存在があって俺は底知れぬ自信があった。これならアリシアさんを守り、近くにいることが出来るだろうと。


「そろそろ出発の時間です。宜しいでしょうか?」

「お願いします」


 時間が押しているのだろうか。御者が尋ねてきたので返事をするとすぐさま馬車が走り出す。


 王様は名残惜しそうにしており、見えなくなるまでずっと手を振り続けていた。そんな姿を見てアリシアさんは、お恥ずかしいですと頬を染めていた。確かにあれが王様だと色々大変だろうな。


「そういえば、この前の魔法の方は上手くいってる?」


 学園に行くまでの間、馬車の中では特にすることもないので雑談をすることにした。この前の魔法というのは新しく禁書庫で見つけたとある魔法のことだ。


「うーん。あの魔法は少し特殊みたいです。金属などの媒体に魔力を込めて使用するものみたいで…。何より二人いないと意味のない魔法ですから…」


「金属の媒体か…」


 魔法を使用するのに媒体が必要なのは少し面倒くさいな。城にいたときなら何とかなったかもしれないが、学園に入ってしまうと用意するのは難しいかもしれない。金属だったらなんでもいいのかな?


 …いやまてよ?もしかしたらこれはチャンスかもしれないな…。


 よし!


「わかった、媒体はこっちで探してみるよ」

「ありがとうございます。ところでメディくんも魔法の方は順調ですか?この頃、魔術ばかり練習しているようですから…」


 話題が変わって俺の話になる。確かに最近はアリシアさんと一緒に禁書庫へ向かうのは減っていた。二人っきりで静かな部屋にいると絶対に意識してしまうので少し避けていた節はある。


「あーほら、俺って魔法は使えないことになってるから。魔術を練習しとかないと変に思われる可能性も捨てきれないからね」


 魔術の練習は実際にしているのだが、本当は二人っきりが恥ずかしいなんて口が裂けても言えない。アリシアさんを一人にしてもしものことがあると嫌なので、すぐ駆けつけられるように準備はしてあるが…。


 って!これじゃまるでストーカーみたいじゃないか‼


「そうですよね…。でも、学園なら一緒に居られる時間は増えますよね!」


 俺の心情とは真逆に澄み切った笑顔を見せる彼女。意図して言っているのかわからないが、その言葉では俺と一緒に居たいのかと勘違いしてしまうじゃないか!


 本当にそうだったら嬉しいけどね‼


「そ、そうだね。」

「学園、楽しみですね」


 ポツリと呟いたその言葉から、アリシアさんは学園生活に相当な憧れを抱いているようだった。


 それから他愛もない話を続け、いつの間にか学園に到着していた。


「ありがとうございました」


「いえいえ、またご縁がありましたらその時は宜しくお願い致します」


 馬車を降りて御者に挨拶をすると、すぐさま馬車は去っていった。


 さて、ここからが本当に俺のスタートなのだろう。校門をくぐるその一歩が―


「メディくん、早く行きましょ?」

「…そうですね」


 美少女と学園に通うとなって感極まっていたのかもしれない。謎のポエムを披露する前にアリシアさんが止めてくれてよかった…。


 大きな門をくぐり、そのまま進んでいくと受付のような場所が見えてきた。ピークの時間帯を避けて来たので人はまばらだ。


 …ん?受付の人の前にあるのは…げっ、


「こんにちは。入学する生徒さんですね?それでしたらこちらの水晶に触れてください」


 俺のトラウマ、水晶の登場だ。


 いやトラウマってほどではないが、ステータスを測定したときのあのガラスが割れたような音。それを思い出すと少し身震いをしてしまう。また同じことが起こらないか心配だ。


「……」

「どうしたんですか、メディくん?…私が先に触りますね」


 ペタ


 ああ!しまった。ちょっとビビっていたせいでアリシアさんが先に触ってしまった。…くそ、ちょっと情けないな。


 アリシアさんが触れた水晶はボンヤリとした光を放ちすぐに発光をやめた。すると受付の人が机の中から一枚の紙を取り出した。


「これがあなたのクラスと座席の位置になります。もし自分のクラスの場所がわからない場合はあちらにある案内板で確認してくださいね」


 同じセリフを何回も言ってきたのだろう。気持ち早口でそう告げた。


「ほら、メディくんも」

「わ、わかったよ」


 アリシアさんに促されて水晶の前に立つ。彼女はわくわくした目でこちらを見つめている。


 ペタ


「……」

「はい、こちらがあなたのクラスと座席の位置になります。それにしても凄いですね!お二人ともS1クラスだなんて」

「やった!メディくん、一緒のクラスですね!」


 よかった…。特に何事もなく終わった。ま、まぁアリシアさんと一緒なれるのは知ってたし?当然の結果かな。


「今回は優秀な人が多くて特別クラスが二つになったと聞いたときは心配しましたけど…。杞憂でしたね!」


 えっ?そんなの聞いてないけど…。もしかしてアリシアさんと違うクラスの可能性もあったってこと?…一緒のクラスになれたから問題ない!うん、この事は忘れよう。


「アリシアさん、早速クラスに行こうか」


「はい!今日は何をするんでしょうね?」


 実はこの学園には入学式というものは存在しない。なんでも、単純に人数が多くて時間が掛かり過ぎてしまうから、という理由らしい。そんなの魔法でどうにかなりそうだけど…まぁ、堅苦しい式典が無いのは気が楽だな。


 と言う訳でクラスに向かったあとに何をするのか全く聞かされていないのだ。まぁ学園案内とか寮の説明とかだろう。とにかくクラスに向かってみよう。


 そう思い案内板のところまで歩こうとしたその時、


「おや、そこに居られるのはアリシア様…とメディ君じゃないか」


 突然、声を掛けられた。

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