メイドさん
こんばんは、メディです。
俺は異世界にとばされてモンスターと戦ったり、女の子に出会ったり、その父親に殺されそうになったり、色々なことがあって現在ではとある国の城の中に泊まっている。
慣れないことばかり起こり俺の体は思っていた以上に疲弊していたようで、部屋に案内されるとすぐに椅子に座った状態で寝てしまっていた。
そんなこんなで俺が目覚めたのは完全に外が暗くなった深夜。小さな窓から見える景色は暗闇のみ。この部屋の光は外から見ればハッキリとわかるだろうが、部屋の中からは外が暗いと言うことしかわからない。
いつもの癖で時間を確認しようとするも、確認できる物が無いことを思い出す。バイトに行くときに持っていた荷物は無くなっていたし、そもそも初めての事ばかりで興奮しており荷物のことなど微塵も覚えていなかった。
メイドを呼ぼうと思ったが、現在時刻がわからないため寝静まっていたら呼び出すのは悪いと思ってしまい結局呼び出さなかった。
仕方なくシャワーを浴びて寝ようとしたところで尿意に気がつき、部屋にあるシャワー室の隣に設置されていたトイレのマークを頼りにそこに駆け込んだ。
中には洋式の便座があったので普通に一通り済ませ、手を洗ったところでふと思い出した。
……あれ?異世界にいるはずなんだがなんで洋式のトイレがあるんだ?
目を擦ってみるが、やはり紛れもなく一般的に使われていた洋式トイレだった。流石に便座を温める機能や自動洗浄などは付いていなかったが。
もしかしてこの世界の文明は俺のいた世界とあまり変わらないのだろうか?だとしたら俺にとっても住みやすくなるのでありがたい。
そんなことを思いながらシャワーを浴び、待望のベットへと向かった。
因みに服は置かれていたものを着ている。
ふふふ、このベットを一目見たときからけしからぬふかふかと見抜いたよ。
なにせお城のベットだ。今まで体験したものとはひと味もふた味も違うだろう。
コンコン
不意にドアがノックされる。折角のベットスプリングを邪魔されてしまった。
一体誰だ…?
少し面倒くさいと思いながら、渋々ドアを開ける。そこには……
「こ、こんばんは」
「あっ、どうも…」
可愛い天使ことアリシアさんがいた。もこもことしたピンク色の寝間着が彼女の可愛らしさを引き立たせている。今は頭の上に精霊たちは見えないが、それでも天使と勘違いしてしまう程の美しさだった。
「起きていらしたのですね。もしかして起こしてしまいましたか?」
「いや、丁度起きてたよ」
「それなら良かったです…。少しお部屋にお邪魔してもよろしいですか?」
部屋に訪れた彼女はとても弱々しく、涙目にはなっていないが目には恐怖の色が覗えた。
一体、彼女の元気は何処へいったのだろうか。
俺の寝ている間に何かあったのだろうか?
先程までのイライラなどとっくに何処かへいってしまった。
「わかった、とりあえず部屋に入りなよ」
いつまでも廊下に立たせているわけには行かない。ゆっくりと部屋に招き入れた。
「それでどうしたの?」
彼女を招き入れ、ソファーに座らせた。自然と俺もその隣に座る。
少し落ち着いた彼女は重そうな口を開け、何があったのかを話してくれた。
「じ、実は……」
彼女が話してくれたのは、今回、彼女の身に起きた事件。つまり転移魔法の転移先が、森の中に入れ替えられていた事についてだった。
彼女は行き先を固定する転移魔法の練習をしており、本当だったら城の中の庭園と自分の部屋を繋いでいたらしいが何者かによって行き先が森の中に変更されていた。と言うことだった。
「…しかもそれだけではないんです。宮廷魔術師であるツェルトさんが行方不明らしいのです。ツェルトさんの指揮下にあった騎士団も姿が見えなくて…」
ツェルトと言えば俺たちが帰還したときに王様が呼んでいた名前だ。
宮廷魔術師というからには魔法に精通しているのだろうか。
というか魔術師なのに騎士団とか持ってるんだ。
「騎士団か…。そういえば森の中で城の人とは違うタイプの鎧を纏った人が何人かいたなぁ」
「それは本当ですか?!」
急に驚きの声を上げる彼女。そんなに驚くことだろうか?
「うん。確かに鎧を纏ってたよ」
「そんな…本当に…?」
良くなっていた顔色が再び青ざめていく。
鎧の人のことを聞いた途端にこうなった…。そしてそのことをアリシアさんは知っていた?いや予想していた、の方が正しいだろうか。
何はともあれ、アリシアさんが落ち着くまで俺は傍に居ることしかできなかった。
結果から話すと、アリシアさんはソファーに座ったまま寝てしまった。
落ち着いたところで詳しく話を聞こうと思っていたが、逆に静かにしすぎて眠ってしまったのだろう。
まぁ今日は転移魔法使ったり、モンスターに襲われたりで疲れたのだろう。
俺もこちらの世界は初日なのでかなり疲れて寝てしまったし…。
それで、ここからの一番の問題は疲れて寝てしまったアリシアさんをどうするか、ということだ。
このままソファーに寝かしているのはまずいだろう。
ベットに運ぶか?ベットまで行くとなると彼女を持ち上げて運ぶしかない。一番の持ち上げやすいのはお姫様抱っこだろう。
持ち上げるということは当たり前の事だが、彼女に触れなければならない。
果たして俺がそんなことしていいのだろうか?
何かないかと部屋を見渡すと、机の上にベルが置いてあるのを見つけた。
そうだ、思い出した。ベルでメイドさんを呼べばいいんだ。そうすれば何とかしてくれるだろう。さっきは私事だったけど今回は仕方がないな。
彼女を起こさないように廊下に出て、ベルを鳴らしてみる。すると
「お呼びでしょうか」
「うわっ」
突然、隣に人影が現れた。
「大変失礼いたしました。メイド長から第一印象が重要だと聞いていたため、このような登場をさせて頂きました」
隣に現れた人影はエプロンドレス?を身に着けたメイドさんだった。
「申し遅れました。私はメイドのセナと申します」
「あ、どうも。今日からお世話になります、メディです」
「それではメディ様。ご要件は何でしょうか」
「あぁ、そうだった。アリ…シアさんが俺の部屋で寝ちゃったんで、どうしようかなーと」
「左様でございますか。では私がアリシア様をお運び致します」
そういうとセナさんはスッと部屋に入り、アリシアさんをお姫様抱っこしてそそくさと立ち去っていった。
……あれ?特にイベントも何も起きなかったな。いや、あんな言葉遣いで話されたのは初めてだけど。
うん、でも、普通が一番だな。よし、もう一回寝るか。
一つ、アリシアさんの事が気がかりだが本人が寝てしまってはどうしようもないだろう。別に急ぎってわけでもないだろうし。
そう俺の中での区切りをつけ今度はベットに入っていった。
ベットはどうかって?そりゃ凄くふかふかでしたよ。
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