名前呼び
客間を出た後、広い城の中をアリシアさんと共に歩いていた。
ポムちゃんと歩いた時のチリチリとする視線は、不思議と感じなくなっていた。
「あの、メディ様」
頬を赤らめ、視線を頻繁に動かして落ち着きのない様子の彼女。
「どうかした?」
立ち止まって彼女と向かい合う。現在の彼女は森にいたときの純白のワンピースではなく、スカート部分が薄く青みがかったワンピースを着用している。
純白ではないにしろ、清楚なイメージの彼女にとても似合っている。
「お、お願いがあるのですが…」
もじもじとしながらなかなか内容を話さない。
なんだ?そんなに言い出しにくい事なのか?…俺の身だしなみが悪いとかじゃないよな?
確かに、オークと戦ってから体も服も洗っていない。それが気になるというのだろうか?それとも俺の顔に何かついてるとか?
鼻毛が出てるとか指摘されたら間違いなく窓から飛び降りる自信がある。
「お願いと言うのはですね。失礼を承知で申し上げるのですが…」
「は、はい」
ドキドキ、ドキドキ
「メディくんと呼んでも宜しいでしょうか!?」
ほっ、なんだそんなことか。思わず笑いが漏れた。
「別に俺は構わないよ。というか王女様が他の人を様付で呼んでいたらそれこそ大変だよ」
「そ、そうですね!メディくん、と呼ばせて頂きます!」
王女様にも同級生ならフランクな感じで接するのかな?そんなことはないと思うんだけど…まあ、いいか。俺も彼女との仲を詰めたいからな。
「でしたら、メディくんも私の事をアリシア、とお呼びください!」
「えっ…それはちょっと…」
王女であるアリシアさんを呼び捨てにするのは流石に気が引けるな。呼び捨てしているところをお城の人とかに見られたら不敬だなどと言われ追い回されるかもしれないし。
「だめ、ですか?」
不安そうな顔でこちらを見上げてくる。
くそ!なんて反則的な上目遣いなんだ!これでは断るに断れないじゃないか。
「…周りに人がいない時なら」
「わかりました!よろしくお願いしますね、メディくん!」
「うん。よろしくね…アリシア」
「はいっ!」
城の中だが、周りに人がいないようだったので呼んでしまったが…大丈夫だよな?
彼女は上機嫌になり、鼻歌交じりに廊下を歩いていく。
「あ、そうだ。もう一つありました」
再び振り返り、近づいてくる。
「今日は助けて頂き、本当にありがとうございました。お父様もあまり態度には出しませんでしたが、とても感謝しておりました」
改めてお礼を言われ戸惑ってしまう。だが、ありがとうと言われて嫌な気分になる人はいないだろう。素直にその言葉を受け取った。
「アリシアを助けることが出来てよかったよ。王様もなんだかんだ言って部屋も用意してくれたみたいだし」
「そう言って頂けると嬉しいです。…では、お部屋に案内いたしますね」
歩くこと数分、城の広さに感心しつつ俺の部屋らしき場所に案内された。
客間の豪華さとは違い、落ち着いた印象を抱く部屋だった。それでも凡人が用意できるような家具は置いていないのだろうが。
「本日からはこの部屋でお休みください!生活に必要な物は備えてある筈ですが、他に何か必要な物がありましたらそちらにあるベルでメイドをお呼びください」
「メイドがいるんだ。廊下じゃすれ違わなかったけど…」
「そうですね、私の件もありましたし色々と雑務をお願いしています」
メイドさんが雑務か…。結構幅広く仕事をしてるんだな。
「ごめんなさい、私もやらなければいけないことがあるのでこれで失礼しますね」
「あぁ、分かった。ここまで案内してくれてありがとう」
「いえ…それではまた」
案内をしてくれたアリシアさんが部屋を出て行き、扉が閉められる。
ふぅー。疲れたなぁー。
ソファーに腰かけ一息つくとたちまち眠気が襲ってきた。予想以上に疲れていたみたいだ。
シャワールームもあるみたいだが…そこまでが遠い。結局、睡魔には勝てずそのまま俺の意識は落ちていった。
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