さかな
お昼の時間になり、ご飯が机から出て来た。
食堂というものは無く、自動的にご飯が定刻になると支給される。
よくディストピアSF作品にあるやつだ。生まれてから死ぬまで監視されて、個人の自由は全くなく、何の楽しみも無く時間を浪費する。
俺もサラリーマン時代はそんな感じだったな。
朝起きてから準備して電車に乗り、決まった時間その場所に縛られ(働くとは言っていない)、また電車で帰宅し泥のように眠る。
これもディストピアとあまり変わらないような気がする。
学校というのは、社会というディストピアに耐性をつけさせる為の訓練をさせる教育機関という側面もあるかも知れない。
決まり切った時間に席に着き、決まり切った事をやらされ、決まり切った言葉を言わされる。
先生は尊敬できますとか、先生って彼女いるんですかとか、放課後屋上に来て下さいとか。何かをプログラミングされたかのようにお決まりのパターンをこれ程かというまでに見せつけてくる。
ちなみに自分も屋上に来て下さいと誘われた事があるが、案の定というか期待した自分も悪かったのだが、不良のカツアゲのお誘いだったのは、墓場まで内緒にしておきたい俺の秘密だ。
「先生ーさかなたべてー」
田坂が俺の皿に魚の切り身を箸で移してきた。
魚の形にはなっているが、成型されたものである。ソーセージの中身を切り身に似せている。ならソーセージの方が食いやすいわ!
ヴィーガン的な肉を使っていないハンバーグに通ずる気がする。肉に未練がましいというか。魚の切り身に未練は特に無いけど・・・・・・
「それくらい食べろ。大きくなれないぞ」
「え~先生どこ見て言ってるの~?えっち~」
「ちがっ、別に見てないだろ!言いがかりはよせ」
年頃の女の子はこれだから困る。けしからん。あとで教育的指導しなくては。
「アタシだって大人のレディなんだから、つあんと相手してよね」
「はいはいわかったから、魚食べろ。骨が弱くなって終いにゃ折れるぞ」
田坂は渋々箸を動かし、その魚の切り身を一口サイズにカットし、震える手を押さえながら、口へ運ぶ。
まるで地獄に堕ちたかのような悶絶の表情を浮かべたあと、床に突っ伏してそのまま動かなくなった。
「もうだめ、死ぬ。さかなに殺されるー」
「別にアレルギーとかじゃないんだろ?死なないだろ」
「でも、アタシもこのさかなみたいにいつかは切り身にされて食べられるのかな?」
「いきなり何言い出すんだよ。そんなワケ無いだろ」
その言葉を聞いて、突っ伏していた顔をひょっこり覗かせて、笑顔を浮かべた。
魚の切り身は俺の励ましの御陰で、何とか完食まで辿り着く事が出来た。
やれば出来るじゃん、田坂!
マシマロ 天川 榎 @EnokiAmakawa
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。マシマロの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます