シーズン1

ぬいぐるみ

 相上の寝袋から、熊のぬいぐるみの顔が見えている。

「なに、この熊」

 俺が熊のぬいぐるみを寝袋から取り出す。すると、田坂が俺の手を熊のぬいぐるみからはね除けた。

「ちょっと!汚い手で触らないでよ、おっさん」

「お、おっさん・・・・・・?まだおっさんって年齢じゃねえぞ、俺は!」

「十分おっさんだろうが。相上が可哀想だろ?」

 田坂は俺に相上に触れさせまいと間に入り、寝袋から出かかっていたぬいぐるみを元に戻した。

「まったく、最近の若い奴はなんも分かっちゃいねぇな。ぬいぐるみ抱えて寝ている女子校生なんて、触れられずにいられるかよ!」

「だから、その発言が既におっさんなんだって。つーか相上に寝ている隙に触れようとしたのかよ。気持ち悪っ」

 田坂は相上の側にあぐらをかいて座った。スカートから神秘の布が見えそうで見えないので内心がっかりした。

「こいつ、一日中寝てるんだ。そういう病気か知らないけど。だから、アタシが少しは守ってやんないとって、この熊のぬいぐるみを買ってプレゼントしたんだ。そしたら、こいつ気に入ったのか、毎日一緒に熊のぬいぐるみを抱えて寝るようになっちゃって・・・・・・可愛いとこあるだろ?」

「いや、お前が熊のぬいぐるみを選んだって、そのセンスが可愛い」

「なっ・・・・・・悪いかよ」

 田坂は思わず赤面する。

「あんまり相上と話した事無くて、いっつもこんな感じだからさ。少しは起きて話してくれてもいいのに」

「俺、話した事あるぞ」

「え、嘘?マジで?」

 田坂が前のめりになって俺に近づいてきた。ゆるゆるのYシャツから、振り子のように揺さぶられる双丘が俺の視線を釘付けにする。

「こいつを教室に呼ぶときに、偶然起きてたから話掛けて、そのまま負ぶって連れてきた」

「すげえ。お前持ってんじゃん」

「そんなに珍しいのかよ、相上が起きるの」

「そうだよ。だいたい一ヶ月に2、3日起きてる姿見られたら良い方だよ」

「どうやって生きてるんだよ相上・・・・・・霞でも鼻から吸って生きてるのか?」

「いや、どうも相上って夜型みたいで、深夜に活動するみたいなんだ」

「夜行性か。じゃあ学校なんて通えないじゃん」

「だからこの学校にしたんだって。適当にやっていれば卒業出来るみたいだし」

 田坂は立ち上がり、熊のぬいぐるみを軽く撫でて元の席に戻った。

「そうか、すげえなこの学校。寝てても卒業出来るのか」

 そう話すと、相上の目がいきなり開いた。

「あ、もう授業の時間ですか?」

「もう始まってるよ」

「そうですか・・・・・・今日は熊のぬいぐるみを持っていたのに、ヤケに騒がしいですね」

「え、お前が熊のぬいぐるみ持ってるのって・・・・・・」

「田坂が寝ている時に話掛けてきてうるさいからです」

 そう言い残し、また相上は夢の世界へと帰っていった。

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