第7話:世界樹の伝説なんか無い

 不良女の出席番号4番「田坂智たさかとも」は、もうあの口振りだと教室に行ってくれるだろう。意外と不良の方が、屈した際には言うことを聞きやすいんだよな。あれ、俺ってもしかしてS?それは無いな。やっぱり言葉で責めるより、責められた方がゾクゾクするから違うよな。

 遂にあと1人でクラスの生徒が揃う算段が立った。そもそもクラスの人数が5人っていうのも少数精鋭過ぎて疑問だ。よっぽど何かをやらかして、このクラスに入れられたのか、それとも元々この学校には5人しか生徒が存在しないのかも、全く聞かされていない。なぜこの5人の生徒が集められ、俺みたいな根っからのクズから授業を受けなければならないのだろう。そんなに業を背負った奴らなのか?

 罰ゲームの授業を受ける予定の生徒は、やはりというべきか、大きな木の下でシートを敷いて読書に耽っていた。おお、これこそ俺の待ち望んでいた清楚系女子校生!すまない、他の4人たちよ。ここで個別ルートは確定だ。

「こんにちは!こんな所で何してるの?」

 街中を歩く普通のおじさんを気取って話掛ける。

「こんにちは。どうしましたか?」

 その女の子は読んでいた文庫本『裸のランチ』を閉じ、俺の方に目線を移した。

「今日からあなたの担任になりました!これから授業を行うんだけれど、一緒に教室に来てくれないかい?」

 まるで街で声を掛ける不審者のような構図だ。

「あなたが担任である根拠は何処にあるのですか?」

「ああ、ここにあるとも」

 校長から貰った任命書を女の子に見せる。

「それは偽造しているモノでは無いんですか?証明できますか?」

「いや、まあ、校長・・・・・・から貰ったから間違いないんじゃないかな?」

 随分とこの女の子、疑り深い。まあ、当然といえな当然か。突然見ず知らずのおっさんに声を掛けられ、連れて行こうとしているのだから、即警察に通報されてもおかしくはない。

「その校長、と名乗っている方は、何処の校長ですか?もしかして駅前にある怪しい店で『校長』と名乗っているような人ですか?」

「そんな訳ないだろ!どんだけ疑り深いんだよ・・・・・・ちゃんとこの学校の校長に話しをして、担任にされたんだ。証言者に校長を連れてきても良いよ」

「いいえ。校長には会いたくありません」

 校長を連れてくる、という単語を口にした途端、女の子の表情に陰りが見えた。

「分かりました。このような事をするのは、校長しか居ませんしね。教室に戻ります」

 その女の子は、木の下に広げてあったシートをまとめ、その場を立ち去った。校長って、この女の子たちにとって、どんな存在なんだろう。今までの女の子の証言をまとめると、どうやら担任をコロコロ変えているようだ。そして教育内容は『人生』。やはりまともだとは思われてないのだろうか。そりゃそうだよな。授業に誰も出ようとしてなかったしな。

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