第5話:屋上はワンダーランド

 無事に保健室から出席番号1番『相上由香里あいうえゆかり』を連れ出すことに成功した。相上を背負って教室までの地獄のような行軍を経て、教室に辿り着く。井ノ瀬は教室に着くやいなや、ロッカーから寝袋を取り出し、そのまま床で寝始めてしまった。まあ、ここに来てくれただけでも良しとしよう。

 残るはあと4人。先程の保健室に居るという予想が的中したので、もう一方の屋上も確認してみよう。ここまで定番の不良やヤバい奴の溜まり場にいると逆にわざとやっているんじゃないかとまで考えてしまう。アニメやゲームの定番でいえば、あとは体育館裏とか大きな木の下とかですか?そこらに行ってイベントとフラグを回収するとか、俺はギャルゲ主人公ですか・・・・・・?

 教室から階段で屋上へ向かう。自分の気のせいか、どの階も人気ひとけが無い。普通の学校であれば、どの教室でも授業が行われ、教師の声がいくつか聞こえてきてもいいのだが、全くもって聞こえず、聞こえるのは俺の気持ち悪いゴム底靴の足音だけだ。この学校は少数精鋭でやっているのであれば、確かにあまり物音がしないのは納得だが、そんなに人を少なくしてやっているのであれば、こんなに広い校舎はいらない気がするが、なぜこんなだだっ広い校舎でやっているのだろうか?まあ、今俺が気にしたところでどうにも出来ないが。

 鍵の掛かっていない屋上への扉を開く。そこでは2人の少女が戦いを繰り広げていた。

「強くなったな・・・・・・」

「これもアセンションのおかげです」

 意味の分からない会話が繰り広げられている。2人の額には汗がじんわりと滲み、制服は何か攻撃を受けたのか、所々破けてしまっている。

「おい、何やってるんだ!授業の時間だぞ」

「すまない、先生。まだこの強者との決着がついていないんだ。邪魔をしないでくれ」

「そうです。この戦いに負ければ、世界が滅亡してしまいます」

 2人揃ってなんかの物語の主人公にでも成りきっているのか?片方はショートヘアの格闘家気取りで、もう片方はポニーテールの電波少女といった感じか。なんでこの学校はこんなにクセの強い生徒しかいないんだ。

「とりあえず教室に来い。そうすれば決着でもアセンブリでもつけられるから、早くしろよな」

 先程念入りに嗅ぎ取った生徒用体育着を二着、その場において屋上からは去った。その身なりはさすがに汚いから、着替えてから来いと言葉を添えて。もちろん、タダで着替えさせる訳がない。俺の映像コレクションに加える為に決まっている!ハハハ!ダマされおって小娘たちよ。教師がお前らみたいな言うこと聞かない奴らに無条件で付き従う訳がないだろ!

 すみません、正直に話しますとこの2人に構うのが面倒くさそうだったから、着替えてくれて教室にも来てくれたら一石二鳥だと思っただけです、はい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る