第2話:秘密の花園もどき

「もしもし、あの、チラシを見て電話した者ですが」

「ああ、ありがとうございます。採用です。これから言う場所に来て下さい」

 電話口でいきなり採用宣言された俺は、言われるがまま指定の場所へと急行した。この出会いは、絶対俺の人生を大きく変えてくれるはずだ。そういうお店のボーイで長年続けて信頼を勝ち得れば、いつか振り向いてくれる女性がいるだろう。きっとそうだ。そうに決まっている。

 指定された場所は駅前の怪しい雑居ビルでは無く、郊外にある校舎であった。まさか、あのチラシは『本物』の募集だったのか?!明らかに倫理に反しているだろ。特に採用要件や資格の確認をせず電話越しで採用するような学園がまともなハズがない。そんなに教師の確保に困っているのか?というか、あのチラシで引っかかってくるような人間が、まともな教師になれるはずがないだろう。もう性犯罪する気満々の奴しか反応しないだろ!自分に思いっきりブーメラン返って来てるけど。

 校門の警備員に軽く一礼してスルーで通ろうとしたら案の定止められ、事情聴取された後校舎に通された。こんな学校でもセキュリティは一丁前なんだな。

 特に誰からも説明も無く校長室に案内され、いきなり坊主の中年校長と二人っきり面接となった。

「君はなぜこの学校に応募しようとしたのかい?」

真面目な質問をしてきた。あのチラシを刷って配ってどの口が言うんだ。

「いや、このチラシを見て、女子校生と仲良くなれたらいいなと思って、気がついたら電話掛けてました」

「やはりキミは正直者だな。これなら安心して託せる」

 そう言って校長は、机の引き出しからおもむろに書類を取り出した。

「キミにはこの5人の担任になってもらいたい」

 そこには5人の生徒の今までの経過を表したレポートが書かれていた。

「はあ・・・・・・そうですか。それで教科は何を教えればいいんですか?やっぱり保健体育ですか?自分、それしか自信ないのでぜひやらせてくださいおねがいします」

「何言ってるんだねキミは。全教科だよ」

 生まれてこの方、勉強は保健体育の為のエロ本集め位しかしてこなかった俺に、全ての教科を教えろなんて無茶な話だ。亀に今から二足歩行して宙返り決めて見せろと言っているのと同じだ。

「いや、さすがに無理ですよ」

「大丈夫。うちは一般的な教科は一切教えていないから、安心なさい」

「え?じゃあ生徒には先生は何を教えているんですか?」

「そりゃ決まってる、『人生』だよ」

 年配の者が若者をとっ捕まえてひたすら人生を説く、頭がお花畑な不思議な女子校に、俺は就職することになった。大丈夫か、俺の人生。あ、元々総崩れでしたね。振り返らずとも分かっています。クズな俺の人生を生徒に教えて、同じような人生を歩ませる。そういった人生の先輩になればいいんですよね、分かります。

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