その叫びは

走り出した。

少しずつ詰めていた距離を一気にゼロにすると、拳を上げて一機の右頬目掛けて振り下ろす。


「なんだ。貴様は!!」


地面から伸びる枝が俺の体を絡め取ろうとしてくる。

だけど、動きが遅くて避けるのが容易。体勢を崩しながら前転で回避してから打撃を加えようと腕を振るう。


「なぜだ。この体は友人のものであろう!」

「これが知らない誰かや二葉姉だったら殴らないけど。相手が一機なら容赦なくやれる」

「なぜだ!!」

「友人だからこそ、殴ってでも引き戻すんだよ!」


なんでか知らないが、動きが鈍い。

これが好機とばかりに体を動かした。ギュッと拳を握りながら七機に教わった動きで殴り続ける。


当たらない。


俺が手を抜いているわけではない。一機に隙がないわけでもない。避けているのに必死だからでもない。


拳が空を切る。


「まだ、なにかしてるってことか」

「この二人がどうなっても構わないのか!」

「できないんだろ?」


それができるならば、わざわざ捕らえたりしていない。何か裏があるのだろう。必要以上に傷つけられない制約か何かが。


ふぅと息を吐く。


当たらない理由を考えても仕方がない。下手に思考を回しても答えが出ないのだから。

七機に視線を送り、様子を窺う。


まだ、ダメか?


目を閉じている。さっき話しかけてきたのだから意識はあると思ったのだが、ここに入ってから声が聞こえない。


言わされた?


だが、言わされたとしてまともに言うか?


「解決を丸投げしたか」

「何をブツブツ言っているのか知らないが、歯向かうなら止めるしかあるまい」


木の蔓が俺の体にまとわりついてくる。なのに、絡め取ろうとはしてこない。少し動くだけで蔓が逃げていく。


「止められないんだろ?」

「くっ!!」


多分、これは仕様なのだろう。

全員がそうであるのか、一機だけが特別なのかを判断するには材料が足りない。もしかしたら、一樹が何かをしているのかもしれない。


漫画で見たファイティングポーズで拳を振るう。


狙いは顔面。胴のほうが的は大きいが、体重の乗った攻撃をボディに入れるだけの技術を会得していなかった。


「お前は、何がしたい?」

「それは我のセリフだ。何がしたいのだ!」

「一樹を返してもらう。お前も連れて帰る。それが俺の願いだが?」

「はっ?」


捕縛の手が止まった。

その隙を逃さぬように組み付き。マウントポジションを取った。


「強欲だろ?」

「我を許すというのか?」

「許さねぇよ。だけど、一人で戦ったお前を放置する趣味もねぇ。これをまずは解除しろ。怒りに任せて力を使うな。馬鹿一樹」


拳を振り下ろした。


狙い過たず左頬に吸い込まれる打撃。

零れる涙が、頬を伝った。


「なら、どうしろって言うんだよ。訳の分からない衝動に呑み込まれて、破壊を強要されて、二人からは襲われて、どうしろって言うんだよ!!」


叫ぶ言葉は一樹のものだ。

胸を抑え、全力で叫ぶ姿にホッと息を吐いた。

終わりがようやく見えてきた。

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