覚悟
滑り台を一気に滑る。
目前に迫る木の塊。ぶつかる可能性をまるで考えずに突っ込んだ。
「大丈夫。大丈夫。だろ?」
祈るように、飛び込んだ。
木の塊は、球体でありながら壁のようにそそり立って見える。貫いて奥まで届いているこの滑り台だが、すぐに回復する巨樹を知っている。
必死に丸くなりながら入口を抜ける。ブワッと強い風を感じながら辿り着いたのは、広い空間だった。
入ってきた場所は閉じられ、逃げられないようにする徹底っぷり。招かれたのだろうと思いながら視線を動かせばーー
「七機!」
全身から血を流し、服もボロボロになっている七機の姿。持っていたはずの荷物も無く。その手には鋭利な剣が一本握られていた。
「大丈夫か!?」
「もちろんだよ。あと少し、そこまで追い詰めたんだよ」
向けられた剣の先。そこには鎖で縛られる一樹と二葉姉の姿。
今から二人にトドメを刺す。そのような光景に見えた。
「救えるのか?」
「ごめんね。僕には、無理だったよ。だから、どっちかはこの剣で貫かないといけないんだ。お兄ちゃんは、どっちを選ぶ?」
「どっち、を?」
「そう。親友とお姉さんと……どっちを助けたい?」
どちらかを選べばどちらかを切り落とすことになる。まるで、英雄への問いかけである。
世界を救うために大切なものを切り捨てられる人が英雄と呼ばれる。救いはない。それが、この世界の理なんだと、七機の瞳が教えてくれる。
「選ぶとしたら、俺はどうしたらいい?」
「この剣で、貫いて。そうすれば……全てが終わるよ」
「そうか」
剣を受け取る。
答えは出ている。それが正解かどうかは分からない。だけど、こんなふざけた問いかけに対する答えなんて一つしかない。
一樹。いや、一機。この騒動の元凶にして全てを奪おうとする化け物。
俺はあいつに勝つために、あいつから全てを取り返すために剣を振るう。
「まずはーー」
これからだ。
振り返り、七機を斬り捨てる。胸を横一文字に斬れば、動揺の宿った視線を向けてくる。
躊躇いはなかった。
覚悟を決めた俺は、兄と慕ってくれる子を、大切な仲間を、この手にかけた。
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