顕現

パリンと、世界が砕ける音がした。

それと同時に巨樹だった物が消え去る。

地面すら見えないほどに高く浮かんでいたはずなのに、気がつけば建物が視界に広がり、土人形が消え去っていた。


「なっなんだ!?」

「分かりません!?」


結界が弾け飛んだことだけは確かなのだが、その理由が分からずに辺りを見回す。

月が世界を照らす夜の一幕。空を覆う星を眺めていると、先程までの光景忘れてしまいそうになる。


そう言えば、夜に出たんだった。


長い間あそこに居たような気がしてしまうが、実際は時間なんて一秒も進んではいない。これが、あの世界のルールだ。


近くに七機や五機がいない。


俺たちだけ弾き出されたのだとしてら、二人が危険だ。


(七機。聞こえるか?)


心の中で、呼びかける。

応えてくれと願いながらの問に(聞こえるよ。ちょっとマズイことになっちゃった)返事がきた。

彩乃と視線を合わせれば、軽く頷かれる。五機とも連絡が取れたのだろう。

少し下がり、周囲を見回す。屋根の上に乗る二人が視界に入った。無事であることを喜ぶことができないのは、マズイことになったと慌てる七機の声を聞いたからだ。

指差す方に視線を向ければ、山だった。


近くにあるただの山。方向からそれは分かる。だが、月明かりだけでは光量が足りずに暗闇が強い。何があるのか全く見えていないが、ぐにゃりと何かが動いたように思えた。


「えっ?」


山の形を思い出す。

そう言えば、少し膨らんでいるように思える。いや、まさかな。


「下に降りるよ!」

「あっああ」


七機たちに話を聞くために一度屋根の上に降りる。


「ごめんお兄ちゃん」

「開口一番で謝罪ってことは、マジであれが一樹なのか?」

「うん。それも二機を取り込んでるから顕現してる状態。あのまま転がってきたら、ここら辺は完全に押し潰されちゃう」

「なんだそれ!?」


そんなことされたらこの街は終わる。

俺が、躊躇ったせいか?

一樹を助けようなんて思ったから……


「お兄ちゃんのせいじゃないよ。誰のせいでもない」

「うん。みんなで決めたこと」


すでに覚悟を決めている様子の二人は、蠢く塊を見つめる。

日が昇れば、瞬く間にニュースに取り上げられることだろう。今でさえ、見えているなら奔走している可能性は高い。


「なんとか、出来るのか?」

「ん? なんとかするんだよ。僕たちの手でね」


心強い言葉。

だが、ここからでも分かるほどに巨大化した塊に対して何か出来ることがあると言うのだろうか?

ここにあの時戦った火の魔人が居てくれたら……なんで思うが、あの人は天に還ったのだ。助けてくれなんて言ったところで無意味。今ある手札で戦うしかない。


「行くよ。五機」

「はい」


二人が闇の中を駆けていく。


「どうする。追いかける?」

「ああ」


彩乃と共に、二人を追いかける。


これが、ゲームでなく現実であることを強く心に抱いてしまう。

ここから先、失敗は許されないのだ。


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