ようやく

「はっ!?」


意識が回復した時、俺は外にいた。宙へと投げ出されている。七機がいない。抱きついていたはずなのに、なんでだ?


疑問を抱いても状況は変わらない。青い空があり、体が何故か回転していた。


「????」


クルクルと回る視界。投げられたのだろうけど、なんで!?

ハテナマークばかりが頭を巡る。慣性に従い、落ちゆく体。ほんと、なんでこのタイミングで意識が戻ったのか分からない。この体はどれだけ傷ついても回復するのは分かってる。分かってるけど、もしも頭から落ちて右目に深刻なダメージがあれば……終わりだなぁ。


「先輩!」

「彩乃!?」


救いの女神が、俺の体を抱きとめてくれた。

なるほど。彩乃が居たからパスしたわけか。意識がなかったから分からなかったけど、きっとやる前に一言あったのだろう。反応がなかったから投げたというわけか。


「状況分かるか?」

「私の方でもやることやりましたけど、最悪ですね。あれを」


彩乃の肩を借りて体勢を整えてから指差す方を向けば、木が乱雑に巨樹を貫いていた。

まるで、内側から食い破らんかのように暴れている。

その中を、七機は逃げているようだった。補給が見込めないために能力を使わずに、体一つで。


手助けするために右目に集中して片眼鏡を出す。


「痛っ!!」


未来を見るよりも先に痛みが脳を貫いた。

力が使えなくなったのか疑うレベルの痛み。違う方向に視線を向けても、痛みは消えない。


ダメだ。能力が使えない。未来が、見えない。


「先輩。大丈夫!?」

「なんだか知らないけど、能力が上手く発動出来ない。今の俺は、役立たずだ」

「今の私たちがやるべきことは逃げることです。できる限り、アレに絡まれないようにするのが大事です」


伸びる木の枝は、こちらにまで迫っている。その速度は、七機に迫るものよりもかなり遅く。避けることを可能にしてはいるが、それでも自転車と同じくらいの速度にはなっているので彩乃の目には緊張が宿っている。

俺の力が万全ならば、見ながら指示を出せるけれど……それすらもできない。


「万事休す。なのか」

「まだ、終わってないです。五機が頑張ってます。救うんですよね!」


強い語気に、心が揺れる。


そうだ。その通りだ。ここで力が使えないからと。追い詰められているからとクヨクヨしてはいられない。

作戦なんて状況によって変わるのだ。ならば今、この場でやれることを考えるしかないじゃないか。


足りない頭でも、思考を巡らせることはできる。


(七機。なんとかなりそうか?)

(僕は平気だよ。派手にやっちゃっていいかな?)

(やっちまえ)


怯えることはない。

敵は強大なのだ。その実力を思えば、手なんて抜いてられない。無茶してなんぼだ。限界なんて関係ない。


「彩乃。無理するわ。最悪の時は、支えてくれるか?」

「……はい」


一瞬の沈黙。その後に頷いた。

なら無理をしようと、もう一度片眼鏡を顕現させる。


「先輩!?」


痛い。痛い。痛い。

頭が捩じ切れそうなほどに痛む。それでも、未来が脳裏に浮かぶ。ありとあらゆる選択肢の中から、ありそうな未来が右目に宿る。


ようやく。ようやくスタート地点に立ったのだ。


「突き進むぞ。俺たちの力を見せつけよう」


叫びと同じタイミングで、巨樹が真っ二つに分かれる。

反撃、開始だ。

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