転機
ズンッと、巨樹全体が大きく揺れるのを感じ取った。
その振動に、俺と七機は顔を見合わせる。自然的な事象では揺れることがない巨樹の揺れの意味するところを想像すれば、二つしか答えが出てこない。
一機の行動と彩乃の行動。その二つだ。
これが一機が何かしたのであれば危険度は増すが、二葉姉を拘束した一機が特殊な行動を取るとは考えにくい。
となると、この振動を起こした理由は九割方彩乃であると判断出来る。となると、俺たちがやるべきことが見えてくる。
「にゃはは。まだ、諦めるのは早そうだね」
「流石は彩乃だよ。ほんと、欲しい時に欲しい物をくれる」
パンっと手を叩いて鼓舞する。
幾度かの振動に呼応するようにダンジョンと化している道に変化が生ずる。
なかった場所に道が出来、行ける場所が増えたのだ。
「お兄ちゃん。掴まって」
「おう」
こうなるとは想定してなかったが、起こった結果に反応する暇も惜しい俺たちは行動を開始する。
七機に目的地まで連れて行ってもらうのだ。小学生にしか見えない七機に背負われるのは絵面としては最悪ではあるけど、俺が走るよりも数倍速いのでこのスタイルでやるしかない。
今回は特にスピード勝負になるのだ。
残り少ないゴミを利用して鎖を作り、俺の体に巻き付けて落ちないようにする。無事なのは手だけで、胴体は完全に動かないようになっていた。
たくさん用意したはずはのに、底が見えているのは不安を呼ぶ。
それでも、七機はその感情を表に出さない。
俺を背中に乗せて開いた道を全力で駆け抜ける。その速度たるは新幹線レベル。小さな背中にしっかりとしがみつき、鎖で巻き付けられてなお、俺を振り落とさんと暴風が襲ってくる。
声も出せない。出せば舌を噛みそうだからだ。
前も目えない。顔を上げるだけで首から上が持っていかれそうだからだ。
こんな状態では見ることすらままならない。
七機は、そんな俺に文句を言わない。むしろ、もっと強く抱きついてと念を送ってくるほどだ。
転機のタイミングを逃すわけにはいかない。もっと速度を上げると語っていた。
右へ左へ、どこへ連れていかれるのか分からないけれど、作戦通りであるならばそれでいい。
無事な両手で七機の細い肩に手を回す。
やってくれ。
そう強く念じると速度がまた上がる。俺の意識は、速度と共に一度持っていかれた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます