巨樹ダンジョン 1
穴の中に入ると、仄かな明かりがあった。
ヒカリゴケ、なのだろうか?
薄く光る物体があちこちにあるため、足元は問題なかった。高さは身長と同じくらい。横幅も両手が触れるくらいしかない狭い通路。
少し高揚しているのが分かる。
「ワクワクするね!」
「ダンジョン探索か。ますますゲームだな」
「ほらほら、明らかにモンスターだよ!」
「マジかよ!?」
蠢いている塊。薄明かりではその姿をちゃんと見ることが出来ないが、敵であることは間違いなく。緩慢な動きで近づいてくる。
「木の人形、じゃないな」
「ん〜分かりやすく言うと、五機の土人形の崩れた姿だね」
「土があるのか。なら、五機の出番だな」
呼ぶ前に来ちゃったから一度出ないと話にならないけどな。
ちゃんと見えているのか、試しとばかりに近づいて刀を振るう。
「手応えがおかしい。逃げないと!」
「後ろからも来るんだが!?」
少し進んだだけのはずだが、いつの間にか包囲されていた。七機と離れるわけにはいかず、片眼鏡を出して未来を見ながら走り出す。
彩乃にヘルプを出す手段が無くなったので、見つけてくれることを祈るしかない。集合時間に来なければ探してくれるだろう。
ドロドロの土人形は、目的があるのかビチャビチャ落ちる腕を振り上げながら迫ってくる。
通路が狭いから大きく逃げられず、玉砕覚悟で正面突破。緩慢な動きだからこそ、脇から抜けられた。横幅いっぱいいっぱいに土が無くてよかったと思う。
「お兄ちゃん。こっちこっち」
「斬れないのか!?」
「すぐにくっついちゃう」
巨樹と同様の回復能力持ちか。厄介すぎる。
入り口は完全に塞がれたから奥に逃げるしかない。
「なぁまさかとは思うが……」
「にゃはは。閉じ込められちゃったね〜助け来ないかも」
大ピンチだ。
こっちに攻撃手段が無い以上未来予測で逃げ切りのみが勝利条件となる。
七機が道標になるようにナイフを壁に向かって投げたりしているが、生き物のように吐き出されて完治してしまうのでまるで意味が無い。
一本道に見えるが、土人形が壁に擬態していれば話が変わってくる。誘導されているのであればこのまま走り抜けるのは危険だ。
「何か手はないのか!!」
「あったら何とかしてるよ〜」
二人揃っての全力疾走。
足が、腹が、肺が、悲鳴を上げる。
逃げないといけないのに、速度がどんどん落ちていく。
「お兄ちゃん!!」
「くそっ」
叫びに、前転するように前へと飛ぶ。
後ろから倒れ込んだ土人形がベチャリと潰れ、土が背中にこびり付いた。
「うわっ!!」
それが、罠であった。
服が引っ張られる。後ろを向けば再生した土人形の腕が服を掴んでいた。
逃げられない。
悟った時には、土人形に飲み込まれていた。必死にもがいて助かろうとするが、体は浮上しない。手に柔らかい感触と力強く引っ張る感覚はあったが、外に出られそうにはない。
閉じてしまった瞳は、世界を拒絶する。
俺と七機の探索は……終わった。
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