巨樹ダンジョン 2
音が、聞こえる。息が出来る。そのことに気がついたことで、浮上した意識が目を開こうとする。
「んっん?」
声を出せた。命は残っている。
軽く拳を握り、右目に手を翳す。
ちゃんとある。
それなら七機も無事であろうと体を起こせば、隣で寝ている姿が目に入る。
死んだと思った。
あの泥だか土だかに見えた人形に取り込まれた時は、本気で命を持っていかれたと感じたが、そうでもなかったようだ。
近くにはそれらしい物体はいない。
ただ、閉じ込められているらしく牢屋のようになった木に四方を囲まれていた。上の方に気持ち程度のヒカリゴケがあるので近くは見られたが、それだけだ。
「現状確認終了かな」
光源が外にないので、牢屋状の木よりも先は見えない。助けが来るとも思えない状況なので不安は大きいが、それでもお互いに無事であることは救いだ。
「起きてるか?」
「うん。寝てた方がいいかなって思ったけど、もう大丈夫?」
「大丈夫、なのかねぇ」
何一つ大丈夫の要素はない。
この木が巨樹と同じものであるならば、斬ったところで数秒後には元通りになっている事だろう。逃げられないと分かっている状況としては不安は大きい。
何か手があるのなら別だけど……
「なにかあるか?」
「ん〜ない。かなぁ」
「そっか」
つまり、しばらくはこの牢屋で過ごすことになると……干涸らびて死ぬのが先かな?
「明かりを、お願いします」
パッと、牢屋の外に光が指す。その圧倒的光量に、強制的に目を閉じた。チカチカする感覚が収まるのに数秒だろうか?
相手にこちらを害する意思があったなら致命的な時間。だけど、そうはならなかった。話をする意思はあるのだろうと、ゆっくり目を開く。
「二葉、姉?」
「お久しぶりです。それで、あなたはここで何をしていたのですか?」
微笑みを浮かべるのは、居なくなった時と寸分の変化もない二葉姉。着ている服ですら学校の制服である。
「二葉姉こそ、ここで何を……?」
「質問に質問で返すことは感心しませんよ。先に答えるのはあなたです。そちらの七機が答えても構いませんよ」
「僕?」
「はい。奈々ちゃんの記憶があるなら、わたくしのことも分かりますよね?」
「うん。もちろん分かるよ。その存在理由も分かる。だけど、お兄ちゃんは分からないから説明して欲しいなぁ。僕が説明してもきっと分からないし」
「わたくしの質問。聞いていますか?」
「それもちゃんと答えるからさ」
笑顔なのに、威圧感を覚える。
ただ話しているだけなのに背筋が寒くなる。下手を打てば即死が有り得ると思わせられる圧倒的な存在感。見た目が二葉姉なのに、その根底がまるで見えてこない。
「いいでしょう。出てください」
「わーい」
「いい、のか?」
「見ないと。話になりません」
背中を向けて歩き出す。
周囲には先程の人形がウロウロしていた。なにか目的があるのか、木を剥がしている。彼らが剥がした部分は回復しないので特殊な方法があるのだと分かる。ただ、それがどういう方法なのかまでは不明だ。
あまり周りに視線を奪われていたら遅れるので慌てて二人の後を追う。
今の状況を知るために……
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