巨樹の枝
「でっか」
ようやく辿り着いた巨樹は、寸尺を間違えたのではなかろうかと疑うほどに大きい。枝に着地した俺たちだけど、下を覗けば雲と小さな家らしきものしか見えない。落ちたら即死は免れない。空を見上げれば宇宙にまで届くのではないかと思うほどに枝葉を伸ばしている。下から見た時は雲の辺りだったはずなのに不思議だ。
「寒くないですか?」
「呼吸もキツイな」
耳も痛くなる。
そりゃ雲と同じ高さまで登ってきたのだ。寒くなるのも当然と言えば当然である。恐らくは、一番上を目指したのだろうが明らかに中腹地点。ここから上に行けるルートがあるのかも分からないので不安しかない。
「滑って落ちたりしないよな?」
「にゃはは。落ちないから安心していいよ」
「もしかして、前にガルムが居たところ同じなのか?」
「そうだよ。だから、下に飛んだところで安全に着地出来るよ」
怖くて出来る気がしない。帰りも全力で彩乃に頼るとしよう。
「ここだと、力使えない。ごめんなさい」
「操る土が無いんじゃ仕方ないさ」
しゅんとしている五機を慰める。
土を操る五機にとって、土の無い場所は鬼門でしかない。ペットボトルに入る量を持ってきても手のひらサイズにしかならないようで、早く効率のいい力になれるように頑張ってはいるようだ。
アスファルトやコンクリートの建物ならば、無理矢理にでも土を引っ張って来られるようだけど……なんでか木材はダメらしい。
距離もあるかもしれないけど、純粋な相性もあるのかもしれない。五行思想だと、木と土は相剋関係にあるしな。
「それで、どこに行くかだな」
「上、じゃないんです?」
目的地が宇宙でなければ問題は無いんだけどな。身の安全は保証されているかもしれないけれど、大気圏突入や宇宙空間探索は出来ればしたくない。無事に帰られるのかも分からないし、安全策で進みたい。なので、答えを聞きながらの攻略だ。一から十まで自分で調べて頑張れと言われようとも、ここは譲らない。ここはゲームとは違うのだ。
「七機ならどうする?」
「うーん。じゃあ、斬る?」
「斬れるのか?」
乗っている枝だけでもかなり広い。乗用車が十台以上同時に走ったところで問題無さそうな広さだ。それを支える幹なんてかなりの太さである。輪切りにしたらそこら辺の街をすっぽり覆うくらいはあるぞ。
歩いて探索なんてしたら何日経っても終わらないことは明白なので、斬る選択肢は確かにありではある。あるけれど……被害は起こらないよな?
「斬った結果、何か起こるの?」
「見れば分かるよ」
アニメで見るような対艦刀を瞬時に作り出すと無造作に振り切った。
「おいおいおいおい!!」
パリンと弾ける対艦刀を手放しながら真っ二つに割れた巨樹に背を向ける七機。唐突な行動に慌てて近づくが、目を疑う光景が目の前に広がった。
「なんだ、これ」
真っ二つになった巨樹。それが、スライムのようにくっついていく。完全にくっつくのに数十秒もかからなかった。傷一つ残さずに回復した巨樹を前にして、
「どうするんだよ」
「これが、ここの世界だよ。巨樹を傷つけることは絶対に出来ないんだ」
ルール。という事なのだろう。
「それ、と」
「んにゃーーーーーー」
「五機くーーーーーーん!!」
強力な回し蹴りを食らった五機が吹き飛ぶ。一瞬で塵へと変わり見えなくなる五機に顔を真っ青にする。
躊躇いがまるでない一撃が怖すぎた。
「ただいま」
「もしかして、リスポーン地点ってことか?」
「そうなるね」
落ちたはずの五機が平然と真後ろに現れてビビる。最悪足を滑らせて落ちるところだ。平静を装ってるけど心臓バクバクである。
「落ちたらここからやり直し。死に戻りじゃないから時間は戻らないよ」
「先に行ってたら追いつくのがかなり大変だな」
七機や五機なら何とかなるだろうけど、俺は即座に復帰は無理だな。彩乃なら空を駆けてワンチャンかな。
「じゃ行こうか。目的地は決まってるから」
「どこだ?」
「巨樹の中心。だよ」
七機が指差す先がどれだけ遠くなのか分からない。今から向かうのが恐ろしい。
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