巨樹へGO

頭の中で朝の光景がリフレインする。

明らかに見てはいけない姿を目撃してしまったせいで平静を取り戻せない。

千寿さんからは離れた部屋に泊まったので、目撃されることはなかったろうけど、無防備すぎる。もし、見たのが別の人だったら本気で大変なことになっていただろう。ピンクな世界に突入していたら、なんて思うと親御さんに顔向けできない。こんな田舎に連れてきた結果、そんな事件が起きたのならは、土下座して責任を取らないと許してもらえない可能性もある。


想像だけで身震いがする。


「お兄ちゃんは悪くないと思うよ?」

「連れてこなければそんな事件も起きないだろ?」

「まぁね〜」


離れた位置で顔を赤くする彩乃には五機が寄り添っている。

会話が聞こえない位置に居るのでどんな話をしているのか不明だが、五機が慰めていることを祈ろう。


「気にしすぎだよ〜」

「なら、お前ならどうなんだ?」

「僕? 僕がお兄ちゃんに下着姿を見られてどう思うかってこと?」

「ああ」

「ん〜特に気にしないかな。見ての通り女性らしい体じゃないしね。子供の裸なんて見ても面白くないでしょ?」


そう言えば、最初に会った時は裸も同然の格好だったな。めちゃくちゃに反応してた頃が懐かしい。

今では大分落ち着いたし、七機の居ない生活を想像出来ないくらいだ。


「にゃはは。丸くなったよね」

「どっちかと言えば、受け入れたって感じだな」

「そうだね〜」


嬉しそうにする七機を見ていると、こっちも嬉しくなってしまう。

金の髪を振りながら朝日を浴びて歩く姿に、幾度と目を引かれる。

その魂の一部は奈々である。全てでは無いとしても、もはや会うことの出来ない最愛の妹とこうして話せるのは幸運なのだ。


少しだけ、気が楽になる。


「よし、巨樹に向かうか」

「方法は?」

「分かりきってる癖に」


なんのために早い時間に出てきたと思っているのだ。


「彩乃」

「ひゃい!!」

「さっきは、悪かった」

「いっいえ、あれは、私が油断してただけですから」


体全体で否定を述べる。

気まずさは無くなっている。チラリと五機に視線を向ければ、サムズアップで返してくるので上手くやったのだろう。


「じゃ、巨樹に行こうぜ」

「えっと、根元が分かるんですか?」

「いや。でも、行けるだろ」


指差すのは彩乃の右足だ。

神の力を宿した右足は、空を歩くことが出来る。その力を利用すれば向かうことは可能だろう。


どのくらいの距離かは分からないが、七機や五機が反対しない。それに、昨日の行って帰ってくる速度を考えると、そこまで遠くはないはずだ。


「そう言えば、そうでしたね。使わないと忘れます」

「日常生活じゃ使えないしな」


俺の未来を見る片眼鏡だって、普段使えば情報量の多さに頭がショートしてしまうだろう。

暇を見ては七機と訓練はしている。戦いは嫌だが、否応なしに巻き込まれることを考えたら訓練は必要なのだ。


「先輩。手を」

「ああ」


恋人繋ぎでしっかりと握ると、空へ向かって足を出す。

引っ張られる感覚にヒヤリとしながら、彩乃に全てを任せる。

謎に包まれた巨樹へ。俺たちは歩いて向かうのだ。

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