巨樹とは

「えっと、ただいま?」


しばらくして戻ってきた七機から零れたのは疑問を含んだ挨拶だ。

行こう。そう言った俺たちは、近くの寺院で休んでいた。小学校近くにある俺にとっては馴染み深い寺院。その中にある広い庭園。池や植物をグルリと見てから設置されている椅子に座り込み、考えていた。


何も言わずに座っていたから、七機も五機も何かあったのではないかと思ってしまったようだ。


「おかえり。どうだった?」

「えっと……お兄ちゃんたちは、何かあった?」

「一樹に会った。それだけだな」


それ以上に語るべき事柄はない。やっていたことなんて軽い観光のようなものばかりで目新しいものはなかったしな。


「そっちの進展は?」

「んーそうだな〜一言で表すなら、想像通り。かな?」

「五機はどうだ?」

「触れないほうがいいです。あれは、触れたら大変なことになります」


ガタガタと震える五機。ニコニコしている七機。二人共、あの巨樹のことを理解しているからこそ態度に出ているのだろう。


「コッペリアン関係ってことで、合ってるか?」

「大正解。なんでここにあるのかは知らないけど、面倒事であることは確かだよ」


本当に触れたく無くなる。

平穏な時間を犠牲にしてまで刺激を求めるつもりはない。七機たちでもう充分だ。

とは言え、考えることはある。あるのだ……


「彩乃はどうしたい?」

「んー巨樹が面倒で、コッペリアン関係で、五機くんが触れるべきでないって言うなら、近づかないほうがいいのかな。触らぬ神に祟りなしって言うしね」


巨樹の調査に乗り気であった彩乃が引くことを選んだ。それならば、俺の出す答えは一つだけ。

一つだけなのだが、脳裏に浮かぶのはフラフラになった一樹の姿である。


今も一人でさまよっているのだと思うと、友人として心苦しくなる。


俺だって、会えることなら双葉姉には会いたい。そのヒントを掴んだ一樹を手伝いたいとは思う。思うけれども、一樹はそれを良しとしない。手を貸そうとすればするほど意固地になって行動する。


一樹の愛は重い。長い年月を経ても減ることの無い愛は蓄積され、とてつもないことになっていた。


それに手を出せば、幼馴染である俺だってタダでは済まない。


巨樹に視線を送る。


「七機は、全て理解しているのか?」

「んにゅ〜そう言われると頷けないかな。あの樹が誰の力で出現しているのかは分かるけど、その人までは分からないし」

「なら、あの巨樹の役割はなんだ?」

「封印、だよ。僕たちの手に負えない人形が居てね。その子を封印しているんだ」

「そっか」


そっか。

可能性は残されている。

なら、一樹とは別に探るべきだな。


封印されているのか、封印しているのか、関係ないのか、関係あるのか、それを知るだけでもいい。今の一樹には出来ないことをしよう。


「お兄ちゃん。それでいいの?」

「地獄に足を踏み入れる覚悟は出来たさ」


あの一樹を見て、心は決まっていたのだ。

だけど、彩乃には関係ない話だ。


「彩乃はーー」

「手伝いますよ。どこまでも」


ニコリと微笑み。俺の手を取った。


引くと言ったのに、なんで心境が変化するかねぇ。

小さく笑い。頷く。


「ありがとう」


俺たちの道は、決まった。





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