2人きり

巨樹と相対することを決めた。

ただ、決めたところで何が出来るわけでもない。


お腹は空いているので、ファミレスに入り適当なものをつまんでからしばらく歩いた。


「巨樹の幹ってどこだろうなー」


日差しを遮ることの無い巨樹を見上げる。

一体どんな原理なのか分からないが、巨樹があるのに太陽や雲が見える。影を作らないので涼しくない。炎天下のアスファルトを踏みしめながら、暑さで流れる汗を拭う。


「今、五機くんたちが探してるから待ってようよ〜」


明らかに俺よりもスポーツしてそうな身なりをしているのに、彩乃は体力が無い。

仕事だとそうでもないけれど、少し運動すれば息が切れてしまう。昔はそうでもなかったようだけど、運動しなければ体力は落ちる。

俺も運動しているわけではないが、常日頃から重いものを持って階段を昇り降りしたり買い出しで少し離れたスーパーにダッシュしたりするのでここに居た時よりは運動をしているつもりではいる。


都会は交通整備が進んでいるので近い距離だと徒歩が多いのあるだろう。田舎だと車が無いと移動が大変なので歩かなくなる。

ずっと暮らしていると特に、だ。歩くならば車で時間短縮することがほとんどだ。


「もっと紹介出来るところがあればいいんだけどな」


散歩がてらに小学校や中学校の外側だけ見てもらった。通学路を歩きながら、ここを歩いてた。祭りの時はここに露店が出来るなど話もしたが、特徴的なことが無いため、すぐに終わってしまう。


「私は楽しいよ?」

「楽しいかなぁ」


見知った景色でしかない俺と違って、彩乃はどれも初めて見る景色。その差があるのだろうか?


「こうして二人で歩くの久しぶりじゃない?」

「最近は、七機か五機が居たからな」


少し前まではよくあったことだ。

デートと言う訳では無いけれど、二人で遊ぶ機会。歩く機会は多くあった。

コッペリアンと出会ったことで、それが大きく崩れている。それに心地良さを覚えるのは、相手を知っているからに他ならない。

知らない間柄であったなら、ここまでベッタリとはならなかっただろう。


「ちょっと、寂しかったな」

「なんだよ。それ」


深く意味を考えずに返す。

意味の無いやり取りなど、これまでに幾度となくやってきた。やってきたのに、何故かむず痒くなってしまう。


雰囲気が、いつもと違っていた。


まだ太陽は爛々と世界を照らしている。

夕方であれば、もっとムードは出たろうに。


「ねぇ、先輩ーー」


「ここで何をしている?」


彩乃の言葉を遮るような声に視線を向ける。

目に隈をつけ、やつれた表情のそいつは……


「一樹、か」


今にも倒れそうな一樹が、俺たちの前に現れた。

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