目に見える厄介

「これからどうする?」


都会と違ってどこかの店で時間を潰すことがほとんど出来ない。移動手段も多くは無いので車が無ければ徒歩か自転車となってしまう。

やろうと思えば彩乃は空を行くことも可能だが、「目立ちたくない」との事で緊急時以外は使うことをしないようだ。

人の居ない場所や時間で練習することはあっても、公衆の面前で披露するつもりはないと断言している。


「どこかオススメのお店はあるの?」

「特に無いんだよなぁ。あんまり食べ歩くことしたことないかなら」


飲食店は多いのだが、個人経営の店が多いために敷居が高く感じるのだ。敷居が高いだけでなく、個人経営の飲食店は大抵両親のことを知っているために、俺のことをあの店の息子さんと表現してくる。


それが嫌だった。


自分は知らないのに相手に知られていて平然と話しかけてくる。それに対してまともに反応出来ない自分に嫌気が差すのだ。


「お兄ちゃんも大変だね〜」

「うるせぇ」

「二人で話してないで、どうするか考えようよ。せっかくなんだから」


せっかくの田舎なんだし、どこか紹介出来る場所があればいいんだけど、なぁ。


学校でも紹介するか?

中に入れないから外から見るだけだけど。


歴史的な建造物でも見て回るか?

特に興味は引かれないけど、彩乃がそうとは限らないし。


どこかの店に入るか?

この場所からだとわりと歩くことになるけど。


うんうん悩むが、回答が見つからない。

地元のいい所が何も浮かばないなんて地元愛が無さすぎると言える。


「今まで帰った時は何してたの?」

「バスで出かけてたな。古本屋とか」

「向こうと変わらないじゃん」


ケラケラと笑われ、頬をかいた。

実際、地元に戻ったとしてもやることなんて何も変わらないのだ。俺と言う人間はそうそう変わりない。


「じゃあさ。あの、巨樹について話す?」

「あえて無視してたんだけどな」


空にある巨大な樹。


どこから幹が生えてるのか分からないほどに寸尺がおかしい。分かるのは、どこまでも巨大という事だけだ。

生えてる部分を探しても見つからないように思えてしまう。


「どー見ても厄介事だろ?」

「えー先輩は気にならないんですか?」

「無視が一番だろ。影響与えてないってことは、関わった時点で何らかの面倒が転がり込んでくる」

「むー五機はどう思う?」

「えっと……触らないほうが、いいと思う。あれ、でしょ?」

「にゃはは。僕とは別意見だね。きっと刺激的なことになるから、厄介事に立ち向かうべきだよ」

「二人は、あれがなんなのか分かってるのか?」


言い方的にコッペリアンに関係するものだということは分かる。敵で無いならばそれでいいが、五機の意見を鑑みれば対処しなくとも問題はないように思える。むしろ、下手に手を出したら大惨事になることが想定されるため、出来るなら無視したい。


「気が合うね。七機ちゃん」

「退屈は嫌だもんね」


ハイタッチするやる気満々の二人を言いくるめる方法が思いつくのであれば無視するが……


「あはは」

「だよな」


視線のあった五機が力なく笑うので諦めるしかなさそうだ。

帰るまでに、あの厄介そうな巨樹と決着をつけなければならないか。

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