お墓参り
「ここが、奈々ちゃんのお墓?」
「奈々っていうか、家の墓だな」
ゆっくり休み、何をしたいのか彩乃に尋ねたところお墓参りがしたいとのことで連れてきた。
俺自身ここには来る予定だったのでちょうどいいとも言える。
掃除をして線香をあげて手を合わせる。
小さなお墓ではあるが、一番動いたのは七機であった。率先して箒を手に落ち葉を払っていった。買ってきた花を処理している間は墓石を雑巾で拭き、何かを口にしているようだったが、俺の耳には届かなかった。
「ついでに、双葉姉のとこにも行くか」
「お墓。あるの?」
「墓石に名前は掘られてないけどな」
まだ生きている可能性があるからなのか、名前を掘ることはなかった。それとなく聞いたことはあるけれど、はぐらかされてしまったのでそれ以上のことは聞いていない。
居なくなった双葉姉が魂だけならば、そこに行くだろうと願っているに過ぎない。
線香を幾つか拝借し、火をつけてからお墓を移動する。そんなに遠い訳では無い。七機や五機はいつもとは違う環境だからかはしゃいでいるように見えた。
「七機ちゃんを見てると、奈々ちゃんが居ないんだって信じられないよね」
「当人であり、別人だからな」
彩乃は奈々のことを知らない。だけど、七機を通して奈々のことを知る機会はあったのだろう昨日の夜にはアルバムも見せた。元気な姿がほとんどではあったが、久しぶりに見た奈々に涙すら浮かべてしまった。
「失わないようにしようね」
「そうだな」
この時間は永遠ではない。
そんなことは分かっている。コッペリアンや観測者なんて夢物語で、目を覚ましたら全て虚空の彼方に消えているかもしれないと何度も思ってしまう。
握った拳の痛みが、夢でないことを如実に現している。
夢であったなら、あの炎の巨人との戦いまで夢になってしまう。結果として正しかったのかは分からない。ああするしか道はなかったとも思う。
「ここだ」
「綺麗にしてるんだね。花も瑞々しいし」
「どうせ一樹だよ。あいつの一日はここから始まるからな」
「もし、さ」
「うん?」
「駆け落ちしてて、誰かと結婚してたら……なんて考えないのかな?」
「それでも、あいつは探すよ。元気で居ることだけを、願っているはずだ」
もしそうであったなら、千寿さんは心配するみんなにもっと別の説明をしていたはずだ。
だから、そうではないのだろうと思っている。
線香を置いて手を合わせる。
まだ残っている線香を見るに、一樹は先程までここに居たのだろうと思える。今どこを探しているのか分からないし、連絡して聞く気にもなれない。
あいつのやりたいようにやればいい。俺たちは俺たちの時間を過ごすだけだ。
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