帰郷

「ふわぁ。もう着いたよ」


大きく欠伸をしながら飛行機内で伸びをする。隣では、五機を膝に乗せた彩乃が船を漕いでいた。朝七時の飛行機に乗るため、五時起床だったせいか飛行機に乗ってすぐに爆睡してしまった。

彩乃は興奮して眠れないかもしれないと笑っていたが、揺れが心地よくて眠りに入ったのだろう。


寝顔を見るのは新鮮だ。


そもそも、一緒に寝る機会なんて早々無いので寝顔を見ることはほとんどない。あるとしたら、飲み会後のカラオケで力尽きた時くらいだろう。その時はお酒も呑んでいるので自分も眠くなってあまりよく見ないので、ちょっと得した気分になる。


周りも降りてるし、いつまでも寝かしておくわけにはいかないので肩を揺する。


「起きろ。着いたぞ」

「んーむにゃ」

「おーきーろー」


頬をツンツンつついてみる。

めちゃくちゃ柔らかくてちょっと癖になりそう。


「あむ」


噛まれた。その上モグモグされている。

本気で噛んでないから少しくすぐったいぐらいですんでいるけど……目が覚めたら後悔するタイプでは?


「じー」


七機と五機の視線が刺さる。

わざとじゃないんだよ。起こそうと思っただけなんだから。


「むぐ。もご……えっ?」


舌が動き、少しくすぐったさを感じてしまう。彩乃も違和感があったのだろう。軽く噛みながら感触を確かめ、首を傾げてからゆっくりと目を開く。


視線が重なり、ニッコリ笑って見せる。

あわあわと口が動くので一気に引っこ抜き、ハンカチで指を拭く。


「さっ早く降りないとな」

「うにゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」


五機を抱きしめて絶叫を上げる彩乃を無視して手荷物を下ろしてさっさと飛行機を後にする。

七機が服の裾を引き、彩乃を指さしているけど今は気にしないことにする。


頬が熱くなってるから、この熱が取れるまで……



無事に飛行機を降り、ベルトコンベアで流れてくる荷物を回収してからロビーに移動する。


言葉をあまり交わすことなく移動したせいでめちゃくちゃ気まずい。理由は分かっている。先程のあれのせいだ。

わざとではないし、起こそうとしただけだが、普通はやらないことをしでかした罪は重い。帰郷ではあるけど、彩乃との旅行でテンションが上がっていたようだ。気を引き締めないと!!


「先夜くん」

「あっ千寿さん。迎えを頼んですいません」


ロビーで待っていた千寿さんに頭を下げる。

親が忙しいので、バスを使う予定だと両親に話したら、いつの間にか千寿さんが迎え役に抜擢されていた。毎年お願いしていて心苦しいのだが、暇だから気にしないでと笑顔で返されてしまう。


暇なのは大丈夫なのか? なんて考えるが、気にしないことにした。厚意を受け取り、神社の清掃などで返還することにしている。

ちなみに、彩乃を泊める事は出来ないかと相談したところ、OKを貰っているので千寿さんのところにしばらく厄介になることになっている。

説明は一通りしているため、まずは挨拶からと彩乃を前にだす。


「五月雨 彩乃です。数日の間お世話になります」

「どうも双守 千寿です。遠路はるばるよく来たね。先夜くんが女の子を連れてくると言うのでどんな子か心配していたけど……いい子じゃないか」

「彼女じゃなくて、友達。なんですけどね」


付け加えるなら職場の後輩でもある。手を出したら確実に迷惑がかかる。ただでさえ人手不足で夏の暇な時期にしか長期休暇なんて取れないのだ。


「今はそういうことにしておこう。さっ車はこっちだよ。先夜くんの荷物も一つ持とうか。二人分は重いだろう?」

「大丈夫ですよ」


自分の荷物はリュックサックに入れて肩に担ぎ、ショルダーバッグに細々とした物を入れていて、彩乃のキャリーバッグを引きずっていたら重そうに見えるのも仕方がない。

だけど、これは自分がやりたいことなのでと断る。彩乃が一番気まずそうにしているけれど、これくらいはさせてほしい。


こんな田舎まで付き合ってくれたのだから。



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