一樹
帰郷して数日。先夜が帰る日の前日。一樹はお墓の前で手を合わせていた。
「絶対に見つけます」
帰ってからのルーティンと化した墓参り。そこにあるのは一樹の苗字である
行方不明から数年後、諦めることを知らない一樹のために千寿がここに眠っていると教えているのだ。元々双守家の墓であり、二葉の母親などが入っているので定期的に墓参りへ訪れているので手入れはしっかりされている。
墓標に名前こそ記されてはいないが、千寿がここを指定した時から、捜索の起点はここになっていた。
諦めるために教えたのに、起点となっては意味がないはずなのに、千寿は特に気にすることはなく自由にさせている。
居なくなってから十年が過ぎようとしているのに、一樹の時間は止まってしまっていた。
身長は伸び、勉強できるようになったところで、止まった針は動かない。
諦めるその時まで、動くことは無いだろう。
「行こう」
一樹の顔を上げる。
その先には、巨大な樹が見えた。
「んん?」
ゴシゴシと目を擦ってもう一度そちらに視線を送ると、その樹は消えていた。
当然だ。その樹は、明らかに街を踏み潰して生えていた。雲にも届きそうな枝葉は、世界樹を想像してしまうほど。
そんなもの、現実にあるはずはない。
だから、白昼夢でも見たんだろうと背中を向けながら頬を叩いて気合いを入れる。
その樹は、双守神社がある場所にあったなんて、一樹は知る由もない。
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