結び

「ということがあったんだよ。一樹の目的は、二葉姉の捜索だ」


締めの言葉で話を終わらせる。


彩乃にもミライにも話したことの無い過去の物語に、ポカーンとした表情を浮かべている。


「どうした?」

「あの、二葉姉さんは、どうなったんです?」

「さぁ?」

「さぁ? じゃなくて、その先は!!」


実際その先は知らないのだ。知らないが、分かることはある。


「神主さん。千寿かずひささんって言うんだけど、その人が気にしなくていいって言っているから俺たちは手が出せないんだよ。諦めてないのは一樹くらいだな」


だからこそ、一樹を応援したいと思うし奢りもする。

あいつは、一人で戦っているのだから……


「なんで、諦めてないんですか?」

「根拠は知らない。だけど、絶対に生きている。どこかに居るはずだって常々言ってるよ。こっちに来ているのは、二葉姉が学校卒業したらこっちに来たいって話してたからだな」

「骨でも出ない限り、ううん。骨が出ても生きてるって信じてそうだよね」

「そうだな」

「?」


しまった。と、口を閉じる。

ミライが居るのに、七機に返事をしてしまった。七機の言葉が届かないと知っているのに……


「気にしない気にしない。先輩は、先回りで答えただけだから」

「先回りって何!?」

「私が骨が出るまでは信じないでしょ? って聞こうとしただけ」

「なんでそれが分かるの? エスパー?」

「相思相愛なんだよ」

「ひゃう」


適当なことを言ったら何故か彩乃が照れたように下を向いてしまった。

助けてくれるなら最後まで付き合ってくれよ……


「お兄ちゃん。そういう所治さないと」


なんで七機に文句言われなければならない。彩乃は五機が慰めに行っているから大丈夫だろうけど。頬が赤く見えるのは気のせいだろう。

俺は彩乃のことを好きだけど、彩乃は違うだろうからな。友達とか同士。先輩後輩の枠から出てないだろう。

いつになったら脱却出来るのだろうか?


「むぅ」

「なんで唸ってるんだよ」

「だってだって! 先生が彩乃を贔屓するもん!」

「してないしてない」


今までの行動を思い返す。

ミライには冷たく接してばかりだけど、それはそれって感じだしな。ダラしない生活が改善されればそれで丸く収まるはずだし。

とは言え、ミライがまともな生活を送れる姿がまるで想像出来ないんだよなぁ。

昔は凄かったらしいのに、なんでこんな風になってしまったのだろうか。


「会った時から、こんなだもんな」

「なーにが、ですか?」

「ミライのダラしなさ」

「仕方ないんですよ。むぅ」


何が仕方ないのか分からないが、もしかしたら学校では猫を被っていただけなのかもしれない。

セキュリティ最悪のこのアパートに住んでいて何も無いのだからダラしないのもアリなのか?


「よし。先輩。もう大丈夫です!」

「あっ復活したか」


良かった。

これで状況を変えられる。


「一樹さんの目的は分かりました。先輩のことも分かりました。でも、二葉姉さんのこと。誰も心配してないんですか?」

「心配したに決まってるだろ。二葉姉の友達は警察に行ったしな。でも、千寿さんが協力しなかった。そのせいで、捜査されることはなかった」


あの頃はかなり大変だった。

二葉姉の交流が広く。多くの人が捜索に参加した。けれど、千寿さんだけがそれを受け入れず、探す必要は無いと断言した。

友人よりも家族の意見が尊重され、捜査は打ち切り。不仲説を唱える人も居たが封殺された。


「今では、調べる術もない。でも、一樹は探してる。強いよな」

「諦めが悪いだけじゃない?」

「そーですそーです。未練がましいです」


確かにその通りだ。

でも、


「会えるなら会いたいとは思うよ」


零す。

あの人には本当にお世話になった。あの一件より前から、ずっと……だからこそ、行方不明と言われた時はショックが大きかった。

二度と会えないかもと言われ、脳を直接殴られたような衝撃を受けた。

隣で、拳を握りしめて目から血の涙を流さんばかりに怒りを噛み殺す一樹が居なければ地面に膝をついていたことだろう。


「まっ未練があるのもいいんじゃね」


誰も何も言わない。

外がいつの間にか真っ暗になっている。荷物をまとめて立ち上がる。


「そろそろ帰る。今度は、お土産持ってくる」

「あっ私も、帰ります」


彩乃と一緒に帰路につく。

地元に戻るまでのカウントダウンが、静かに刻まれる。

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