過去 2
「やぁ来たんだね」
やって来た近くある神社。出迎えてくれた神主さんは、にこやかな笑顔で俺を迎えてくれる。
二葉姉に手を引かれている俺は、不機嫌になりそっぽを向いた。
さっきまで一樹も居たのに、着く直前になって居なくなっていた。二葉姉も、抱っこから手を引くにシフトしたので、歩きたくないのに歩くしかなかった。
「あらら。嫌われちゃったかな?」
「お父さんが嫌われているわけではないですよ」
「そうだといいなぁ」
挨拶もそこそこに社務所に移動する。
涼しい風を感じながら、テーブルを挟んで向かい合う。
俺からは何も言うことは無い。
だから、なのだろう。沈黙は長く続く。
二葉姉は、お茶を準備すると言って部屋を出ている。それからしばらく経っているのに帰ってこないところを見ると、タイミングを見計らっているのだろう。
「奈々ちゃんが亡くなって、一週間か……」
「そう、ですね」
「長かったかな?」
「はい」
そうだ。
奈々が生きていた時には短く感じていた時間が、今ではとても長く……辛く感じてしまう。
思い出すだけで、胸が痛くなる。
「仕方ないことだね。キミは今、何もしていない。ただ自分を責めているだけだ。だから、時は長く感じる」
視線を逸らした。
言い返せないからだ。
「打ち込める何かを見つければ、時間は早く感じるだろう。それが無くなり、無気力になっているキミのことを、奈々ちゃんはどう思うだろうね」
「それは……」
正論過ぎて、言葉が出てこない。
意識してないのに、涙が零れてくる。
「泣いても、誰もキミを救ってはくれないよ。二葉も一樹くんも、ここには来ない」
「なんで……」
「奈々ちゃんの望みだからね。ボクたちは、あの子にキミのことをお願いされたんだよ」
顔を上げる。
意味が分からずに、目を見開いた。
「きっと、気づいていたんだよ。自分が居なくなった後、キミがこうして引きこもる可能性があると、ね」
「だとしても、誰かに頼むなんて……」
「キミのご両親は忙しい。だからボクたちに頼んだのだろう。それに、キミがご両親の言葉を聞くとも思えないしね」
ぐうの音も出ない。
奈々に関して何もしなくていいと言われていたのに無視していた過去があるのだ。それなのに、居なくなったら従順になるとは思えないだろうし、現実問題意向を無視している。
無視しているからなのか、二人は特に何も言わない。学校に行けとも、勉強をしろとも……
それに甘えている自覚はある。あるからなのだろう。胸が苦しくなる。
「ボクは、キミに更正してくれとは言わない。そんなことを言える立場にない。だけどね、歩けないと言うなら、支えることは出来る。手を差し出してくれれば、引っ張ることも出来る。キミが望むなら、力になろう」
どうだろうか、と。手を差し出してくる。
その手を取れば、何かが変わるような気がする。気がするからこそ、その手を取る事が出来なかった。
首を横に振り、立ち上がる。
「俺は、甘えられない。あなたのお世話にはならない」
「そうかい。なら、行くといいよ。ボクが言いたいこと。言わないといけないことはは全て言ったからね。お茶が出るまで、待たなくてもよかったのかね?」
「どうせ、出てこないので」
襖を開けると、そこには湯気の無くなったお茶をお盆に乗せて立っている二葉姉が居た。
薄い笑いを浮かべる二葉姉に頭を下げると、一息にお茶を飲み干して外に向かう。
行かなければならない所が出来た。
俺なりのケジメをつけるのだ。
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