愛の形
飛んでいき、灰へと変わる腕。噴き出す血。
数秒遅れてやってきた痛み……
「がぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
必死に右手で左肩を押さえる。
痛みが、脳に突き刺さり苦悶が零れた。熱さをまるで感じない。痛みだけが、全身を支配していた。
「なんだ。なんだよ!!」
叫び、右手に力を込める。
噴き出す血が止まらない。思考がグルグルと回り、どうするべきか分からなくなる。
「先輩!!」
何かをビリビリに切り裂いた布を左肩に押さえ付けられる。目前に土がせり上がり壁を築いた。
「どうしよう。こんなの……」
『ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい』
彩乃のお陰か周囲の声がようやく聞こえるようになった。
土壁の向こうでは戦いが繰り広げられている事だろうが、戦況はまるで掴めない。
霞むような視界。力の入らない肉体。地面に膝をついて気持ち悪さに耐える。
彩乃が支えてくれているから倒れずにいるが、気を抜けばどうなるか分からない。ゲホッゴホッと胃液を吐きながら呼吸を整える。
「痛みは、どうですか?」
「めちゃくちゃ痛え。痛えけど、直前よりかはマシだ」
「良かったです」
よくよく彩乃を見えば、服が大胆に切り裂かれている。当てる布を作るために切ったのだろう。それを申し訳ないと頭を下げる。
「悪い。油断した」
「そうですね。ですけど、成果はありましたよ」
「どういうことだ?」
「熱波が引きました。今ならまともに戦えるそうです」
指を鳴らすと土壁が消える。
その先では、七機が縦横無尽に駆け回り、土人形が行く手を阻んでいる。時折爆ぜる土人形が居ることから、こちらに向けて攻撃をしていることだけは分かった。
「どういう、ことだ?」
『お父さんが、攻撃することに決めたから……』
「防御と破壊に回していた熱量をこっちに向けているわけか」
土壁が戻る。これは、俺を守る最後の盾なのだろう。先程の火にやられれば、左腕だけですまないはずだ。
「全てを灰にする火炎を受けて無事なのは、七機が切り飛ばしたからか……」
痛みが落ち着き、思考が回りだす。
左腕が無いのは違和感だが、それでも生きているだけマシだろう。今後のことは後で考え、今はあの炎の魔人をどうするか考えるべきだ。
「巨人が魔人じゃ笑えないな」
「笑えないよ。先輩の腕も……」
『本当に、ごめんなさい』
「今はいい。先に……あいつをどうにかするぞ」
土壁に覗き穴をつけてもらい観察する。
戦える環境にはなったが、攻撃が通らないことは変わらない。
未来を見たところで、その事実からは逃れられないだろう。
「あれが、あの人の愛の形……なのか?」
『はい。今でも感じます』
「なら、どんどん強くなるってこと?」
『はい』
長期戦は不利。
ここで決めるしかない。
(七機。聞こえるか?)
(聞こえるよ。どうかしたの?)
(勝負を急ぎたい。どうするべきだ?)
(愛を、ボクに)
だよな。
そう来るとは思った。けど、俺の愛の形なんて分かりはしない。見えない物を捧げることは出来ない。
賭けに、出るか。
「彩乃。肩を貸してくれるか?」
「分かりました」
「躊躇いがないな」
あははと笑う。
質問が来ると思ったが、彩乃は右足に力を入れて準備万端だ。意図は、伝わったらしい。
なら、見せるしかないな。俺の……愛の形を。
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