憤怒

気がつけば、炎の巨人が炎人間まで小さくなっていた。

それに比例するように熱気が増し、近くにあるだけで物が溶けている。


「あれ……どうする」

「にゃはは。どうしようっか」

「戦え、ないよね?」

「うん……」


現在は少し離れた位置で作戦会議中。苦しんでいるのかその場から動かないため、今のうちにと集合したのだ。


「でも、あんなことになるなんて、な」

『ひゃう』


救ってくれと求め、助力をすると行動した悪三さんが土下座しながら震えている。

これ以上強化されても困るので何もしないようにお願いした結果。こうなった。

別に土下座を強要してはいない。むしろ、止めるようにお願いしているくらいだ。それなのに、動く気が無いようで頭を地面にめり込ませる勢いで倒している。


「でも、本当にどうしよう。このままだと、街が焼け野原になっちゃう」

「他のやつが助けに来てくれる可能性は?」

「無いと思うよ。ここまで広がっているのに助けが来ない時点で諦めた方がいいと思う」


そりゃそうかと納得する。

かなり大規模だ。寝過ごすならまだしも見過ごすとは思えない。となると、放置されていると考えるのが自然だ。

他の奴らがどんなやつなのかは知らないが、あまり信用しない方が良さそうだ。


「使える手札は全て切ったのか?」

「うん。現状使えるのは全部かな。もしかしたらって可能性は残っているけどね」


レベルアップ。だろうな。

今のレベルで足りないならば愛を育み、強くなるしかない。

だけど、それはそれで問題もある。愛なんて目に見えない物でレベルアップする。何をすればいいのかさっぱりだ。

いつの間にかレベルが上がっている感じなので、俺が何をすればいいのか見当もつかない。


彩乃を見るが、こちらも首を横に振る。


本格的に手詰まりか。


「悪三さんは何か思いつくことはあるのか?」

『えっと……神の意思、かと』

「僕たちが信奉するのとは別の神様だね。話は聞いたけど、騙されたと見るべきかな。僕たちに誰かを生き返らせる力は無いもん。多分だけど、あの人を絶望させるためのコマにされたんだね」


なるほど、と頷けてしまう。

それだけの事が出来る相手が敵なのだと思うと少し不安だ。これからさらに厳しくなるなら、ここで死ぬのもアリなのか……


(お兄ちゃん。それ以上は、怒るからね)

(悪い)


筒抜けの思考に待ったがかけられる。

せっかく色々なことが面白くなっているのだ。こんな所で死んではいけないか。


「足掻くかね。聞きたいんだが、俺たちに熱耐性を渡せないか?」

『えっと……完全は無理です。私の手を握っているなら多少は、と言ったところでしょうか』

「さっきは熱かったぞ?」

『力の解放をしていませんでしたので』


力を使うかどうかは当人が決められるのは当然か。俺の目だって常に未来を見せる訳では無い。


「七機たちは悪三さんに触れられるか?」

「僕たちは無理みたい。観測者だけ。なのかもしれないね。拒絶されてる感じかな?」

「りょーかい」


つまるところ、俺たちがなんとかするしかないのか。


「先輩?」

「状況に穴を空ける。悪三さん。手伝ってくれ」

「駄目だよ!!」


俺の考えていることが伝わったのか、七機が叫ぶ。しかし、手がない以上はやれることをやるしかない。


「七機たちは近寄れない。なら、俺が行くしかないだろ」

「わっ私も……」

「彩乃は残っててくれ。何かあった時逃げる手段を持っているから、七機たちを連れて逃げて欲しい」


ここから先、何が起こるのか全く分からない。だからこそ、保険をかけておきたい。逃げるだけなら、彩乃が一番のはずだ。


「死ぬ気、ですか?」

「死ぬ気なら、悪三さんに頼まずそのまま突っ込むだろ」


特攻すれば即座に死ねる。ここはそういう場所だ。

なら、自信のやれることを最低限やるしかない。


「さて、頼むぞ」

『はい。救ってください』


右手を差し出し、握られてから歩き出す。

先ほどまでと熱さが違った。触れられる距離にあった火だったのが、悪三さんの力によって少し離れている感じだ。


熱いは熱いが、まだ耐えられる。周りのように即座に溶けることもなく。沸き立つ地面を踏んでも痛みを感じない。


「これなら、近づけるな」


近づくほどに熱くなっていくはずなのに、まるで影響を受けない。この力を直に受けているからこそ、炎の巨人なんかになれるのだろう。


「声は届くのか?」

『恐らくは』


当人も分からない様子だが致し方ない。元々自分の能力についてほとんど理解出来ていないからこその現状だ。悪い方向にばかり針が振れているのでこれ以上はないと信じよう。


「あんたの娘は預かった!!」


声が聞こえるだろう距離まで近づき、叫んだ。『えっ!?』と目を丸くする悪三さんは無視して続ける。


「返して欲しければ火を弱めろ。無理なら対話に応じろ。俺は、あんたを止めに来た」


一歩、前に足を出した。


『亜美。亜美。亜美。亜美。亜美。亜美!!!!!!』


叫びが轟く。

会話は成立しそうに無いが、言葉は通じているようだ。

ぐるんと首が動き、こちらを睨んでいる。


『許さない。許さない。許さない。許さない。許さない。許さない。許さない。許さない』


壊れたロボットのように同じ言葉を繰り返しながらフラフラと近づいてくる。

食いついたようではあるが、これは危険な気がする。未来を見ようと右目に意識を集中させ……


『危ない!!』


腕が引かれた。

意味が分からず、成すがままに倒れ込むと左腕に違和感が生まれる。


「えっ?」


燃えていた。

左腕が燃えている。なのに、熱さをまるで感じない。

不思議な感覚に燃える腕を呆然と見つめてしまう。


「お兄ちゃん!!」


声がした。

同時に腕が切り飛ばされる。燃えて無くなる腕。吹き出る鮮血。

俺は、その光景を見ていることしか出来なかった……





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